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仁木悦子の部屋
浅田悦子作品について
Scince: 2001.04.01
Last Update: 2001.08.06

横顔 - 作品



    浅田悦子の横顔
浅田一家と事件

 仁木悦子は結婚後、浅田悦子として復活する。夫は東都新報のヘリコプターのパイロットである浅田史彦。一男一女をもうけてからの再登場となった。
 住居は、世田谷区の敷地百二十平方メートルほどの一軒家。自宅でピアノを教えるのは無理な環境らしい。筋向かいに住んでいる多冶木さん一家は、準レギュラー。
 愛車は中古のコロナ。後にはマーク2となる。

 さて、復活後の最初の事件は、哲彦が四歳になる一ヶ月前、鈴子が赤ん坊の時に、届け物をした先で知り合い夫婦が殺されていたのを発見することから起こる。(この「初秋の死」事件は九月に起こったことから、哲彦の誕生日は十月と思われる)
 その後は、近所が縁の事件、童話が縁での事件、夫が新聞記者である縁での事件、幼稚園が縁での事件、ピアノ教室が縁での事件、そして最後に幼稚園が舞台の事件に遭遇する事となる。
 家族旅行先の事件もあるが、これは仁木兄妹のコンビが一時的復活した豪華競演、読者サービスの番外編といえるかもしれない。
 また、番外編として、仁木雄太郎単独の事件もある。
 いずれにしても、主婦として、母として、身近な縁で事件に関わるが、好奇心が主な理由で探偵活動を行うのは、一般の巻き込まれ型探偵とひと味違うかも知れない。

 作品として見た場合、謎解きの興味は勿論、小さい頃の仁木雄太郎のエピソードをちりばめてあったり、準レギュラーの登場等、読者サービスも忘れない姿勢は嬉しい限りである。

 「単なるミステリー」「単なる読物」の王道をいく作品群は、まさに「良心」と呼ばれるにふさわしい作品群である。


浅田悦子の人となり

 旧姓仁木、二児の母である。夫は東都新報のヘリコプターのパイロットの浅田史彦。
 好奇心が少しばかり多すぎるのが欠点で、変わった事件にぶつかると母性もどこへやら。どうやらこの性格は結婚しても直らないらしい。
 なお、結婚のいきさつについては、何やら事件らしき物があったらしいが、明らかにされていない。


浅田史彦の人となり

 大学の法科を中退して、ヘリコプターのパイロットとして、東都新報航空部運行課勤務。航空ショーに出るほどの腕前である。
 四角ばったあごと、日に焼けてまっくろな肌と、ぼさぼさの硬い髪をしている。(一説によると、砧警部補に似ているとも)
 愛称は「フミ」。


浅田哲彦の人となり

 浅田一家の長男。「初秋の死」では三歳で登場し、区立ポプラ幼稚園の五歳児クラス、うさぎ組に入るまでになる。航空機マニアなのはやはり父親の影響か。それでいて、やや神経質で感じ易い子供である。
 愛称は「テッチン」。


浅田鈴子の人となり

 浅田一家の長女。「初秋の死」では赤ん坊で登場し、二歳までになる。人見知りしない性格は、母親譲りか。
 愛称は「スウ子」。


仁木雄太郎の人となり

 小さな大学の理学部植物学科の講師で、後に助教授となる。専門は蘚苔類(コケ)。
 住居は野方の公団住宅で、一児の父。
 いつの間にか髪に一筋二筋、白いものの混りかけた年になっていたが、手のひらをみつめながら考える癖は相変わらずらしい。
 「僕は元来正義の味方でもなんでもない。犯罪事件に興味をもつのは、そのなぞを解くのがおもしろいだけで、べつに警察の手伝いをしたいからじゃない」という言葉が彼の立場を象徴している。
 なお、「赤い真珠」「ただ一つの物語」「虹の立つ村」で、彼の幼少の頃の様子の一端が窺われる。


仁木冴子の人となり

 仁木雄太郎夫人。一児の母であるが、「虹の立つ村」では二人目の製造過程中との事。


仁木こずえの人となり

 仁木雄太郎夫妻の一人娘。「初秋の死」では二歳で登場し、「虹の立つ村」では四歳になっている。
 大きな茶色い目をした子で、雄太郎は自分を「おとうさん」と呼ばせているようだ。
 愛称は「コッペ」。


主要関係者

 多冶木さん・・・筋向いの家に老夫婦と哲彦のクラスメートでもある孫の昇君と三人暮らし。
  「赤い真珠」「ただ一つの物語」「木がらしと笛」「ひなの首」「子をとろ 子とろ」「うさぎさんは病気」「サンタクロースと握手しよう」に登場する。

 宇部さん・・・史彦より三歳ほど年下の同僚で社会部の記者。末は鈴子のお婿さん?
  「初秋の死」「赤い真珠」「ただ一つの物語」「木がらしと笛」「二人の昌江」に登場する。

 クマのベーちゃん・・・ぬいぐるみで童話『クマの子ベーちゃん』のモデル。幼い頃は哲彦が、その後は鈴子が抱いて寝た。
  「ただ一つの物語」「木がらしと笛」「子をとろ 子とろ」に登場する。



    好奇心旺盛な主婦 (浅田悦子の作品
「初秋の死」 (推理界 1969.11.)
 旦那の女性関係で悩んでいた黒松由紀子の家へ子ども二人と車で出かけた浅田悦子。ようすがおかしいのでのぞき見ると黒松夫婦が倒れていた。夫婦とも死因は青酸カリらしい。由紀子の兄の元には旦那の女性関係でなやんでいるという手紙が来ていたことや、現場が自殺らしく見えることから由紀子からの無理心中と思われた。しかしいろいろ不審な点がある。そして悦子が発見した後に現場にいた隣の男性の死。ふと悦子は決定的におかしな事に気付く。
 悦子の復活編。名字が変わったこともあって途中まで仁木悦子の結婚後だとは気付かない。小道具がうまく使われているのと、おかしな事に気付くところはさすが。(2001.08.06)

「赤い真珠」 (小説サンデー毎日 1971.05.)
 斜め向かいの為永さんが門も縁側も開けっ放しで留守留守だという。おせっかいで見に行と、為永夫人は電気洗濯機の上にうつぶして死んでいた。ゆかの上一面に水。そして直径七ミリくらいの赤いマジック・インキで塗ったにせ物の真珠が落ちていた。約二週間後、今度は隣のいなぎ荘の一室で青酸カリによる殺人事件が発生した。ここにも赤い玉が。そしていなぎ荘の別の部屋から赤い玉が見つかった。前に住んでいた女性は睡眠薬で自殺したという。
 赤い真珠という小道具が見事に生きている。わりと凝った作品で、ある意味でマニア向けといえる。(2001.08.06)

「ただ一つの物語」 (小説サンデー毎日 1971.12.)
 新聞の伝言板に『クマの子ベーちゃん』求むの記事が。それは哲彦が二歳半の時に病気の木崎七重を訪れたさいに忘れた縫いぐるみのクマのベー公をモデルにした五枚ほどの童話だ。その三ヶ月後に七重は死亡してしまった。どうやら七重の唯一の財産だった宝石を求めてのことらしい。ついには七重の従姉が「きょーりゅーが、キョーリューが」と叫んで死んだ。
 宝探しはさほどでもない。殺人方法も疑問が残る。シリーズとしての面白さと不審に思うポイントは相変わらず仁木悦子らしい。(2001.08.06)

「木がらしと笛」 (推理 1972.02.)
 テレビで林田社長殺人の容疑者木元が財布を拾って渡した女性を捜しているというニュースがあった。西崎さんの奥さんが財布を受け取っているのを見ていため、西崎さんと警察へ行って木元はアリバイが成立した。ところが木元と会うとスウ子は泣き出してしまった。釈然としないことをはっきりさせるために調査を開始した。
 ふとおかしい、という事を子どもから得る話はやはり仁木悦子の独断場か。(2001.08.06)

「ひなの首」 (別冊小説宝石 1972.04.)
 松田家から頂いたひな人形の首が抜け、そこから「はんにんはなえだ」の紙が出てきた。その隣で殺人事件があった事を知ったわたしは好奇心にかられて調べ始める。事件は笹川家の離れで起こり雪の密室の様相を呈していた。
 雪の密室ではあるが、狭義ではどうか。謎の紙片はご愛敬かな。(2001.08.06)

「虹の立つ村」 (小説現代 1976.10.)
 兄嫁が妊娠中のために、わたしは哲彦と鈴子に姪のこずえで群馬県の民宿上毛荘に来た。夕立があり、虹が出た頃に雄太郎もやって来た。と、二階に泊まっていた倉井の手提げかばんから火事。そして倉井が川べりで死んでいるとの知らせが届く。壊れた腕時計から雷雨の前に二つあったジュースの缶うちの青酸カリが入った一つを飲んで死んだらしい。
 豪華総出演といったところ。この手掛かりならば仁木雄太郎でなければならない必然性がある。嬉しい一編。(2001.08.06)

「二人の昌江」 小説現代 1978.10.
 三年前に夫が仕事で八丈島に泊まったとき、やっていた喫茶店が火事で母は焼死し、顔にやけどをおって自殺するつもりだった昌江をうちへ連れてきた。その後、整形手術した彼女が相談に訪ねてきた。祖母に連れ戻された父は四五年後に死亡し、祖母も亡くなったという。焼香に行くと、そこにはもう一人の昌江が。
 本物である事を立証する話。もう一ひねりか、もう少し決定的な事柄があれば、と思われる。(2001.08.06)

「子をとろ 子とろ」 (ベルママン 1979.09.〜11.)
 哲彦から子とろ女の話を聞かされた。てるてる坊主みたいなものをぶつけてやると自分の子どもだと思うらしく撃退法できるという。ポプラ幼稚園の花火大会でアケミちゃんの母の原島紀美子の悲鳴が。子とろ女が出た。そして今度は子とろ女が道に。紀美子の悲鳴。てるてる坊主をぶつけたが子とろ女は消えてしまった。怖がった紀美子は主人が留守の間、阿津見家に泊まることになった。夜中、阿津見夫人が重傷。紀美子はそばでブロンズ像を持って倒れていた。
 口さけ女がヒントとなったかも。タイトルも良い。少しまわりくどい計画だがそれもありだろうな、と思わせられる。(2001.08.06)

「うさぎさんは病気」 (ベルママン 1979.12.〜1980.02.)
 音楽教室でピアノを週一回教えることになり、最年少の生徒矢込通子にはうさぎさんの歌で音楽になじませようとした。ところが二番のうさぎさんは病気のところで突然泣き出した。「おばあちゃんが……死んじゃうよう」と。そこへ、おばあちゃんが亡くなったとの知らせが。おばあちゃんは小川に転落して溺死したようだ。だが孫が事故にあって病院にいるという電話で呼び出されたらしい。死ぬ前のおばあちゃんを見た雅哉くんと会って話をきくが、彼も……。
 導入部の不可思議な感じも理由があるものの、やや説得性に欠ける重いがする。史彦の思わぬ活躍は楽しい。(2001.08.06)

「青い香炉」 (野性時代 1980.06.)
 日光の奥にある三杉荘に男性三名と女性一名が泊まっていた。風が強くなり雨が降ってきて、植物学者と絵かきのお嬢さんが戻ってくた。セールスマンが電話が切れたと言う。電気も切れた。郵便配達が吊橋が切れたと女性を一人案内して戻って来た。陸の孤島と化した山荘。停電にちなんだ話ということで半年前の研原殺害事件の話をする。ろうそくでの二人の影。「セイ」のダイイング・メッセージを残して死亡。そして、高価な紫の香炉でなく青い香炉のみ盗られていた。犯人と思う人の名を書き合う事になり、植物学者は「犯人は誰だか知っているが動機不
 殺人事件そのものは複数のバリエーションの組み合わせで複雑になっているといったところ。登場人物が実は、という稚気あふれる嬉しい趣向の作品。『仁木兄妹の探偵簿』に収録されているということで。(2001.08.06)

「サンタクロースと握手しよう」 (小説宝石 1983.02.)
 幼稚園のクリスマス会。伊勢川さんと高宗さんと榎さんの父親三人が交代でサンタに扮する。が、最後の榎さんがいない。史彦がピンチヒッターになり、白須さんがプレゼントの用意していた調理室の菅井さんのところへ。一方、劇で使用していた袋から榎さんの絞殺死体が。菅井さんも扼殺されていた。壊れた腕時計は一時五十五分。丁度調理室から悲鳴が聞こえた頃だ。夫のポケットから出てきた鍵、既に壊れていた時計、妊娠中だった菅井、蒸発していた江原。悦子は犯人がわかり自首を勧めようとするが。
 子どもを思う親心、仁木悦子の独断場でしょう。トリック的にはバリエーションであるが、一ひねりしてあるのはさすがか。(2001.08.06)


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