Shift_JIS Page

部屋入口 へ
仁木悦子/大井三重子
少年少女向け作品と童話について
Scince: 2001.04.09
Last Update: 2016.10.10

仁木悦子 - 大井三重子



    めもああるおじさん (仁木悦子)
「なぞの写真」 なかよし増刊 1958.01.[国立国会図書館所蔵]
 小学四年生の多美子。一つ上の隣の健ちゃんがお年玉でもらったカメラで写真を撮ってくれた。出来上がった写真。すみに隠れるようにして写っていた男。誘拐?
 一月一日から五日までの日記形式。謎の男の正体は少女漫画でありがちであるし、ユーモア味も同様。快(?)作。(2003.04.10)

「ころちゃんのゆでたまご」 たのしい二年生 1958.05.[国立国会図書館デジタルライブラリー]
 どうぶつしょうがっこうのえんそくのおべんとうで、ゆでたまごがころがりおちていきました。おいかけていったぶたのころちゃんはおおかみにさらわれてしまいます。
 童話仕立てなのと道具の使い方が仁木悦子らしい。内容は、小学二年生向けということで。(2011.09.23)

「午後七時の怪事件」 中学生の友一年 1961.03.[北海道立図書館所蔵]
 おとうさんと文子が帰ってくるとおかあさんがのどをしめられ、ダイヤの指輪が盗まれていた。回復したおかあさんの話では午後七時だったという。警官が来てうす暗い袋小路からひったてられてきたのはおとうさんの友人の竹田。電話で呼び出されたというが、凶器のバンドはその息子のものらしい。翌日、無罪を信じる息子の正夫と文子は犯人を調べ始める。バンドを入手できたのは石野という金貸しだけ。しかし村上青年と一緒だというアリバイがあった。
 アリバイの件は少々アンフェアでおいおいと言いたくなるが、犯人を特定するくだりはさすがです。あなどれません。(2001.04.09)

『消えたおじさん』 東都書房 1961.11.15
 ぼく、国枝明夫は小学六年生。新聞配達をしてるんだ。いつも起きてくるリュウおじさんが今朝は出てこない。学校から戻って行ってみると夕べからいないらしい。行方不明? 交番へ行ったが忙しくてとりあってくれない。心配で調べてみることにしたんだ。友達も手伝ってくれて怪しい車を見たという小さな女の子が見つかった。「エムゴカロ」って書いてあったオート三輪だったって。その意味がなんとかわかったぼくはリュウおじさんを探しに出かけたんだ。ところが逆に悪漢に捕まって閉じ込められたり、脱出したと思ったら女の人を助けることになったり危機一髪の大冒険。リュウおじさんは無事なのだろうか。
 車の手掛かりからの調査や冒険行、スリルやサスペンス、脱出方法の知恵、おまけに意外な犯人までと盛りだくさん。手掛かりも小学高学年程度であれば十分わかる範囲内だと思われます。なによりも無理に子供に合わせたという感じがしない。子供は等身大で感情移入でき、大人は心配しながらも子供を見守れるという稀有な作品かもしれません。(2001.04.23)

「みどりの香炉」 中学生の友一年 1961.12.[北海道立図書館所蔵]
 中学三年の仁木雄太郎と一年の悦子。連休を利用しておとうさんの学生時代の親友、橋本おじ様の家へ泊まりにでかけた。途中で草をつんでいるにいさんのせいでおそくなってしまい、おじ様がむかえにくるという事もあったが無事到着。耳の聞こえない庭を世話している平作おじさんと知り合いの息子の岩代さんが離れに住んでいる。夜、緑色のひすいの香炉が盗まれた。離れの平作さんの部屋からゲタのあとがついていた。
 植物好きの雄太郎、テニスに木登りに推理小説が好きな悦子。ピアノは「エリーゼのために」を弾く。シリーズ番外編! さて、足跡の謎はそんなぁ、と言いたくなる。しかし、犯人を見破る根拠というのが本領発揮。一つは別作品でも使われています。香炉のありかも本領発揮。足跡の謎がネック(本当にできたりして)ですが埋もれたままなのは本当に惜しい作品。(2001.04.09)

「七百まいの一円玉」 小学三年生 1962.01.[子ども図書館所蔵]
 酒井くんはお世話になった職業安定所の原田さんにお礼をしたいと考えました。
 「心の花たば ほんとうにあったお話・いつまでも心にのこるお話」シリーズの中の一編、2頁。実話を元にした創作みたいだが真偽は不明。単なる良い話です。(2004.07.24)

『灰色の手帳』 こども家の光 1962.01.〜12.
 古書で手にとって偶然見つけた作品。子ども図書館閲覧も含めて揃えるのに期間がかかった。雑誌宝石の「ある作家の周囲」 の写真に写っていたのに気が付いたのは後のこと。
 小学六年の浅井孝と五年の中崎鈴子はとなりどうしのなかよし。ゆうべ孝の兄の誠にいさんが勤めている山下電機に強盗が入ったという。下校途中で家をさがしていた誠の友だちの川根と小野の二人に出会い、話をきくと逮捕されたらしい。お金を欲しがっていたこと、ハンカチの落とし物、指紋、付近での目撃者、と不利なことが多い。二人は真犯人をさがそうと重傷の松田おじさんが入院している病院へ行った。おじさんの口からもれた言葉は「はい色の手帳」。二人はおじさんの娘と一緒に家へ行き、はい色の手帳を見つけたが数字の暗号だった。誠にいさんは学校の坂本先生に呼び出されたらしい事はわかったものの、手帳は奪われ、孝も捕まってしまった。洋館から逃げ出し、捕らえられていた鈴子も救出。しかし犯人らに追われて逃げまどう二人。
 暗号自体は簡単ですぐに解読。だが手帳が奪われた為に内容はわからないまま。その後は捕まったり脱出したり。「消えたおじさん」と似た展開といえる。構成は同様にしっかりしている。年齢層がやや低いので一般向けとしては他愛ないのは事実。(2003.06.15追記)

「消えたリュックサック」 たのしい四年生 1962.06.[子ども図書館所蔵]
 遠足に行くのにねずみにかじられてぼろぼろだったために、リュックサックを隣の家から譲ってもらった清くん。城山町へ行く途中の電車で若ノ山というお相撲さんにサインを貰ったりしていたが、おかしやお弁当の入ったそのリュックサックが無くなっていた。松田先生や駅の人も探してくれたけどみつからない。とし子さんとお城の裏の望遠鏡を見たとき、隣の家に間借りしている男がリュックサックを持っているのが見えた。上田清と書いてある。
 望遠鏡で見つけるのは御都合主義ですが、他は少年探偵小説の王道ともいえる。洞窟ではないが城の抜け穴に閉じ込められたり、悪漢にピストルで脅されたり。意外などうでも良い伏線があったり楽しめる一編。(2004.05.05)

「なぞの黒ん坊人形」 中学一年コース 1963.03.[北海道立図書館所蔵]
 中学一年生の松崎進と妹の小学五年生の由美子は初めて子どもだけで東京旅行にきた。泊まった先は父の友だちの那智氏の家。カレーをご馳走してくれたり、人形をくれたり、夜の東京をドライブに連れていってくれたり、やたら親切なんだ。翌日、大阪に来た時には泊まってふしぎな話をしてくれる花村工学博士の家へ遊びに行くと、博士は殺されていた。
 単純といえば単純ですが、こちらも手掛かりを追って犯人を特定するくだりはさすがです。用心深く伏線を考えて構成された作品。ほんとうにあなどれません。(2001.08.05)

「あした天気に」 宝石 1963.06.
 あしたはたぬきのポン太くんのいる動物学校のえんそくです。「あした天気になあれ」 ぞうの花彦くんとくつ占いをします。花彦くんの新しいくつは木に引っかかってしまいました。今度はポン太くんが占いをします。と、目をはなした間に花彦くんのくつが無くなっていました。二人はさがしはじめます。せいの高い?ぴょんぴょんはねる?空を飛ぶ?木のぼりがじょうず?
 お母さまのためのミステリ・コーナーとしての幼児向童話ミステリとの事です。木に引っかかったくつを持っていったのはだれ? ミステリというより、考えるという事を教えてくれる作品といえるかもしれません。(2001.04.09)

「まよなかのお客さま」 『子供たちの探偵簿(2)昼の巻』収録
 ぼくが新しい家の自分の部屋で寝ていると若い女の人の幽霊が現れた。ハンドバッグを探しているという。二人で銀座へ行くと……。
 ショート・ショート。少々抜けた所のある幽霊が微笑ましい。(2002.10.20)

『タワーの下のこどもたち』 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』収録
 「国立国会図書館では欠号らしい(2001.08.06)」と記載していたが、幻の作品が出版!
 東京タワーの近く、丸山正夫と杉ヒロ子は隣どうしの五年生。小谷武、川上六郎、星野和子と外交官の子オラーフは級友で仲良し六人組。正夫の妹のあけみとオラーフの妹マリアは三年生。正夫の担任の若い女の山北先生が母が入院したとの知らせで帰っていったが偽の知らせでそれきり行方がわからなくなってしまった。犬のカピに追わせてみたが自動車で連れ去られたらしい。見つかったバッジは縫製工場のもの。正夫は確かめようとする。オラーフは母国の親戚の観光案内で東京タワーにのぼり展望台でヒロ子とカピをみかけて追っていく。
 もうすぐ東京オリンピックという事もあってかスェーデン人の子も登場。東京タワーもしっかり役割をはたしている。冒険して捕らえられたり、逃げ出したり。六人組がそれぞれ得意な事で分担しているのも良い感じ。新聞連載のためか、謎を解くというより豆探偵たちが調べていく過程に面白味がある。幻のほとんど名のみの作品だっただけに出版されたのは嬉しい限り。(2016.09.22)

「やきいもの歌」 別冊女学生の友 1966.11.[菊陽町図書館所蔵]
 わたし、トメ子は私立探偵になりたいと思って訓練をしている。真野紗織さんと勉強を教え合った帰り、彼女の弟の靖雄君から重大事件を聞かされた。7月頃おぼれ死んだ赤井章太を殺しオワノンも殺すという話を盗み聞きしたという。調べていくうちに、あだ名の付け方がわかりオワノンに知らせに行く途中、靖雄君がいなくなったと聞かされた。怖くて姿をみられなかったのだろうと言ってしまったからか。
 あだ名の付け方を解くのは思いつきだが、読者にはその手がかりが提示されている。それらを含めて、手がかりや伏線はうまい。最後など現実味が薄いという気はするが。靖雄が紗織のやきいも好きを「ロング・ロング・アゴー」の替え歌でからかったりユーモア味もある。ちなみに古関吉雄作詞版のようです。(2004.06.27)

「盗まれたひな祭り」 高2コース 1967.03.[国立国会図書館所蔵]
 三月五日生まれの河井美樹子のお誕生日会に招待された秋山研一は買い物途中の彼女に出会った。きっと楽しいものになるに違いない。家に帰った研一はふと勉強部屋の窓からかすかに見える通りを見た。美樹子は何か一心に考え事をしながら歩いている。そこへ車が来て美樹子が連れ込まれてしまった。たいへんだ。警察に知らせた後、シェパードの縫いぐるみが車にあったのを思い出した。研一の親友、佐々木昇のお店にあった物だ。買った人を聞いて訪ねたが車は盗まれたという。そこで研一は考え事をしていた理由をさぐるべく買い物をした順を追って調べていくことにした。
 推理味・意外性は薄く、ただ犯人が墓穴を掘ったような感じ。黒豆に砂糖をうすくまぶした淡雪豆って……。(2001.08.06)

「そのとき10時の鐘が鳴った」 ジュニア文芸 1967.05.[国立国会図書館所蔵]
 高校三年生の塚田鈴子は風呂屋の帰りに、家の事情で就職組になった桐村敦が川又質店を覗いているのを見かけた。翌日、店主が殺されたのが報道され、敦は自供してしまった。桐村君は犯人じゃない! 駅前の交番の根本巡査、発見者の外海、敦のおとうさんらに話を聞く。外海は店主の甥で動機はある。しかし、岩本老人と会っていたというアリバイがあった。10時の鐘が鳴ったその時に。
 結末は少し拍子抜け。謎解き小説としては難があるが、少女が犯人を探す活躍をする話としては安心して読める。(2001.11.21)

「口笛たんてい局」 こどもの光 1967.05.〜1968.05. [子ども図書館所蔵]
 三つの事件からなる連作。四年生の佐田五郎、小川町子、五年生の水谷仁、木村アケミの仲良し四人は「口笛たんてい局」というグループを作っていた。困った人がいたら手をかそう、平等に話し合おう、などの規則がある。第一の事件では木村さんの隣の豆腐屋の三つになる少年が行方不明になった。犬のクロに臭いを追わせたり聞き込みをしたり、謎が徐々に明らかになっていく。第二の事件では佐田くんがおじさんからのおみやげのボールペンだけが盗まれた。家の外で拾ったメモを解読してみつけた怪しい人物。後を追っていくうちに小川さんが、そして木村さんと佐田くんまでもが捕えられてしまった。第三話の事件は、おじさんの車で湖へ行った四人。小川さんと木村さんは女の子が落としたハンカチを拾って西洋館へ届けに行ったが捕まってしまった。二人を捜していて怪しい男をみた水谷くんと佐田くんもついには捕まってしまった。
 第一の事件では犬の活躍がひかっている。四人と一匹かと思えば第一の事件のみで降板なのが残念。三つの事件ともに捕らえられて救出されるか自力で脱出。パターンとはいえ、その方法に工夫があるとはいえ、続けて読むとつらいものがある。(2004.07.24)

「影は死んでいた」 ジュニア文芸 1967.10.[国立国会図書館所蔵]
 洋一にいさんがノイローゼで入院? にいさんの手記には部屋の窓から殺人事件を目撃したようすが書かれている。一度目は警察を呼んで駆けつけたが、現場のアパートでは犯人と被害者が将棋をしていた。二度目は被害者が生きていた。そして三度目、被害者は女性だった。駆けつけて死体を見つけたが、呼びに行っている間に死体は消えた。幻覚だろうか。洋一にいさんが狂っていたならちゃんとした手記を書けるはずがない。高校三年生の星野真紀子とクラスメートの桜井明彦は真相を調べはじめる。
 計画もたまたまうまくいっただけで無理が感じられる。前半の手記は雰囲気が出ていて良いが、その分後半は駆け足気味なのが残念。(2001.11.21)

「雪のなかの光」 こどもの光 1969.02.
 とうちゃんから小包で来たペンライト(かいちゅう電燈)を欲しがる弟のたかし。パトカーをもらっているのに。かあちゃんはぼくばかりしかる。雪のふるなか、ぼく新川のぼるは家をとびだした。
 きっかけや結末はよくある話だが、話を聞いてくれた人の対応に少しひねりがある。(2004.11.29)

「緑色の自動車」 『口笛探偵局 仁木悦子少年小説コレクション(2)』収録
 『国内戦後ミステリ作家 作品目録 極私的・拾遺集』にありながら確認を怠っていたもの。
 良夫と今度の月曜に十一才になる正子は免許証入りの財布を拾い、深井さんからはお礼に喫茶店ブルーシャトーでジュースとケーキをご馳走になった。月曜日、正子が学校から帰らなかった。正子の弟のケンぼうは緑色の自動車に乗るのを見たという。
 複数の手がかりのちりばめ方はさすが。小学五年生向けとしての本格推理と限定すれば、一部わかって一部気付かない、丁度良い感じ。(2016.09.22)

「消えたケーキ」 希望の友 1976.01.
 小学六年生の私、由美と弟の道夫がクリスマス・ケーキを買いに行った。道夫はかわっていておもしろいとコウモリがついているケーキを欲しがったので買ってきて家のガラス戸だなに入れておいた。が、盗まれた? また買いに行くことになったが、同級生の和彦くんからおかし屋さんのアルバイトの人がさがしていたという。
 島崎リストの反映が微妙なこの時代にも書かれていたのかと驚きでした。物語的には他の少年少女向け作品とかわらない。しかもクリスマス・ケーキごと盗むとはご苦労さまです。最後に出てくる杉本警部補は一般向けで登場する人と同じだろうか。(2004.08.29)


    林の中のびんづめ (大井三重子)
「水曜日のクルト」 『水曜日のクルト』収録
 ぼくは、まだあんまり有名じゃない絵かきです。雑誌社へ行った時にかさがなくなってしまいました。雨の日です。かさを持たない女の子を見かけました。かさがあればなあ。と、いつの間にかかさを持っていました。女の子に渡すと今度はベレー帽が消えていたのです。ベレー帽ははげたおじいさんの頭にかぶさると今度はパイプが消えていました。「でてこい、いたずらもの! どいつだ!」とどなると「水曜日のクルトだよう!」とはっきりとこたえたのです。
 「いたずらというものは、そもそも相手がこまらなければ、はりあいのないものです」ということで、困らせる一方、人の嬉しがる事も同時にしています。良いことと悪いこと、それが組になっていて、やはり心暖まる微笑ましい作品です。(2001.04.09)

「めもあある美術館」 『水曜日のクルト』収録
 ぼくは気がくさくさしていました。家をとびだして歩いていると、とある店の中にある一まいの絵に目がとまりました。死んだおばあちゃんだ。なつかしさでいっぱいです。のっぽの男が店に入ってくると、その絵を買ってしまいました。あとをついていくと、きみのかいた絵だから見せてあげるといったのです。めもあある美術館へ持っていくというのでいっしょにいくことにしました。ぼくが入っていけるへやはたった一つ。そのとびらにはぼくの名前がかかれているではありませんか!
 教科書にも掲載されたことがあるという作品。良い思い出や嫌な思い出の一こま一こまが絵になって残っている。否が応でも絵を書き続けていかなくてはならない。忘れられないのも残酷か、と天の邪鬼的な思いもあるが。正統的な作品といえるかも。(2001.04.09)

「ある水たまりの一生」 『水曜日のクルト』収録
 雨がやんでうら通りに水たまりがひとつできていました。水たまりがきれいな空だというと、どぶがせまっくるしい空に感心するのはいなかものだといいます。水たまりが子どもたちに嫌われると、どぶは迷惑にならないどころかいなかったら人間は困るといいます。水たまりはしずみこんで、じっとしていました。子スズメの姿や街灯を写したりします。水たまりにはまってしまいうらめしそうに見る人もいます。お月さまの優しい声をききながら、水たまりはねむりました。
 「自分におちどがなくても、人にめいわくになってしまうばあいがある」とお月さまはいいます。翌日、水たまりの一生は終わるわけですが、きれいな終わりを迎えます。いろいろな意味できれいな作品です。(2001.04.09)

「ふしぎなひしゃくの話」 『水曜日のクルト』収録
 マップルというしょうじきな、気のいい、くつ屋のじいさんのお話です。じいさんのどうらくとは、皮のあまりで子どもたちのくつを作ることでした。旅の人らしい男が中をのぞいるににきづくと、お茶に招きます。男はだれにも話さないということふしぎなひしゃくをくれました。くつをうめてそのひしゃくで水をやるとくつのなる木が一夜で生えてくるのです。じいさんはその後、びんぼうなこどもたちにいろいろなものを実らせました。そしてある日のこと、国王陛下によびだされました。とうとうひしゃくのことをしゃべってしまい、取り上げられました。ついに王様は頑丈な若者を実らすことを思いつきます。
 戦争のために若者を実らせるという考えは凄い。そして結末は喝采。寓意を読み取るべきでしょうが、ただただおもしろい発想と感心させられます。アピトロカプレヌムのひしゃくというのですが、何か意味があるのでしょうか、わかりません。(2001.04.09)

「血の色の雲」 『水曜日のクルト』収録
 リリには二人のお兄さんがいます。サムにいさんは大学生でもうすぐお医者さんになります。ラムにいさんからだがよわくていつも家にいます。リリはうすべに色の雲の下にいる人にむけて友だちになってくださいと手紙をとばしました。いく月かあと、港に水上飛行機がきました。ファルケルという少年が手紙を持ってきたのです。そこへ突然、宣戦布告の街頭放送です。ファルケルは戻っていきました。サムにいさんのもとへは召集令状がきていました。そして電報がサニにいさんの死をはこんできました。戦争は終わりません。ついには体の弱いラムにいさんまでも召集されていきました。ひとりになってしまい、ファルケルと再会しますが。
 自伝的童話。何もかも飲み込んでしまう戦争。何のための戦争? 個人個人が反対であってもどうしようもない。ただ叫びだけが耳に残ります。心の底からの叫びが。(2001.04.09)

「ありとあらゆるもののびんづめ」 『水曜日のクルト』収録
 しんせつな金物屋のおじさんはやどなしのおばあさんを二かいの自分のへやにすまわせていました。長い年月を金物屋のためにはたらいたおばあさんはある日、はたらけなくなったし孫のいどころもわかったのでそちらでくらしたいといいだしました。お礼としていろいろなものが入っているびんづめをなん千とつくりました。金物屋は買い物してくれたお礼のサービスとしました。一方、となり町にはお金持ちですが病気がちの男の子がいました。庭のすみから外をながめていると、女の子がいました。こっそり二人でどんぐりを拾いにいきます。男の子にとっては生まれてはじめての大旅行です。でもそれで病気がわるくなってしまいました。女の子はさいごだった金物屋のびんづめをおみまいにと渡しにいきます。
 最後に残ったびんづめ、途方もないものです。思わずよかったね、といいたくなる優しいお話です。(2001.04.09)



「かっこう(童謡)」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』編者解題 収録
 かっこがなくよ かっこー
 題が「かっこう」、鳴くのは「かっこ」、鳴き声は「かっこー」。十八歳の頃の作品? 意図して使い分けているのなら、末恐ろしい。(2016.09.22)

「白い雲・黒い雲」 こどもクラブ 1954.09.[子ども図書館所蔵]
 暑い夏の日が大好きな白い雲。黒い雲がやってきて夕立をふらすという。いやだなあ。でもね、下の方を見てごらん。
 読んで聞かせるお話、懸賞入選作。それぞれの立場や役割が素直にかかれている。ラストもきれいな描写。雷さまが懐中電燈を使うのはご愛敬。(2003.01.20)

「星の坊や」 母の友 1955.01.[国立国会図書館所蔵]
 星の坊やが原っぱに落ちている手袋を拾いました。それを見ていた雲のおばさんはいいました。
 1ページのお話。思いやりの教訓的なお話。(2001.11.20)

「ふるいしゃしん」 母の友 1955.03.[国立国会図書館所蔵]
 ヤスノリちゃんは一枚の写真をみつけました。どこのおばさんかなあ。
 1ページのお話。母子関係の問題を暗示しているといえば深読みしすぎか。(2002.12.29)

「ぞうの子とぼうし」 母の友 1955.04.[国立国会図書館所蔵]
 どうぶつえんの子どものぞうの背中にぼうしがとばされてきました。はなの先にぼうしをかぶせて高々とさしあげます。
 1ページのお話。良いことの楽しさを教える教訓的なお話。(2001.11.20)

「おみまい」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館・都立多摩図書館所蔵]
 ジロちゃんのおともだちのススムちゃんがかぜをひいてしまいました。おみまいにいこう。
 単行本応募作。お見舞いに持っていくもの、それが良い味を出しています。(2003.01.20)

「青い空」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館所蔵・都立多摩図書館]
 きれいなお空の色、とカキの木はいいました。きれいでないよ、とダルマさん。
 単行本応募作。お見舞いに持っていくもの、それが良い味を出しています。(2003.01.20)

「冬ごもり」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館・都立多摩図書館所蔵]
 今は冬ごもり。アリのアント君はいもうとのアマイゼちゃんと外へ出てみることに。
 単行本応募作。一風景という感じだが、地震や兄妹の行動は予想外。しかし、アマイゼちゃんという名は……。(2003.01.20)

「あられのお話」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館・都立多摩図書館所蔵]
 おひなさまをかざったのできてごらん、あられもたべましょうね、とおとなりののり子ちゃんがよびました。あられなんかたべられないよ、とひでおちゃん。
 単行本応募作。単純なあられ違いの話ではあるが、おかあさんの行動が良い。しかし、黒いお豆の意味はわからない……。(2003.01.20)

「三本のクレヨン」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館・都立多摩図書館所蔵]
 赤と青ときいろのクレヨンがお日さま、お月さま、お星さま、リンゴ、ミカン、ブドウをかきました。それぞれいちばんだと言います。そのとき、おもちゃのきしゃがでてきました。
 単行本応募作。青に違和感や、なぜ汽車?とは思うものの、ストレートにまとまった作品。(2003.07.06)

「おまわりさん こんにちわ」 『子どもにきかせる話』(与田凖一、佐藤義美監修)福音館書店 1955.05.30[子ども図書館・都立多摩図書館所蔵]
 「こんにちわ」ができるようになったシゲ子ちゃんはやってみたくてたまらないのです。おまわりさんだ。
 単行本応募作。一風景という感じ。おまわりさんがおぼえていたかいなかったか、対応にひと味。(2003.01.20)

「かやのなかの子うさぎ」 母の友 1955.07.[国立国会図書館所蔵]
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。初めてかやをつった夜はゆすって波あそび。おとうさんうさぎはねむらせようと電灯をけします。
 1ページのお話。夏の情景の一コマがきれいに描かれています。(2001.11.20)

「どろんこあし」 母の友 1955.08.[国立国会図書館所蔵]
 ねこのミケは、きたない足であがってきます。カズコちゃんは足のふきかたを教えます。もう大きいのだから一人でふかなきゃおかしいわ。
 1ページのお話。子どもの思いつきが微笑ましい。(2001.11.20)

「ほしの こと くびかざり」 こどもクラブ増刊 1955.08.or09.[子ども図書館所蔵]
 お星さまをまきちらすのがお仕事のふたりの星の子。おかあさんのかんびょうをしている女の子へくびかざりのおくりもの。
 佐藤ひろ子・え、4ページのカラー絵で新人とは思えない扱い。絵がメインなのかもしれないが。星の子がエンゼルのように描かれていることもあり、西洋メルヘンといった趣。(2003.01.20)

「まっかっか」 母の友 1955.10.[国立国会図書館所蔵]
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。まっかなセロハンで見ると全てまっかっかです。でも、いたづらおさるのキャックルが破ってしまいました。ええん。通りかかったくまのおじさんはいいことを教えてくれました。
 1ページのお話。単純ななぐさめでなく、興味を他へむけるとは。(2001.11.20)

「年賀状をかくよ」 母の友 1955.12.[国立国会図書館所蔵]
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。年賀状を一枚づつもらいました。誰に出そうかな。ポコもおばあちゃんに出したい。けんかになります。
 1ページのお話。おとうさんうさぎの案で仲良く一件落着。(2001.11.20)

「おとうさんの めがね」 母の友 1956.01.[国立国会図書館所蔵]
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。おとうさんうさぎはおひるねです。めがねをはずしているからいつもとちがいます。ピコピコうさぎはそっとめがねをかけてみます。
 1ページのお話。いたずらをさとす言葉のほか、めがねの有無で変わるのは変装に通じて興味深い。(2002.07.23)

「ふみきりのおじいさん」 婦人朝日 1956.01.[国立国会図書館所蔵]
 三千七百五十一番目の電車はがおじいさんのふみきりを通る時、男の子がしゃだんきをくぐって飛び出しました。おじさんがかばったので男の子はぶじでしたがおじいさんは。
 「わたしの童話特別募集入選作」の一編。擬人化された電車が主人公で、ひいた前後の警笛の言葉が変わる。すずめとのやりとりや、その結果も救われる。運転手が出てこなく、ひいた電車が主人公という珍しい設定で成功している。傑作。(選評座談会、浜田広介・坪田譲治・与田準一 はチェックもれ)(2003.06.15)

「みこちゃんとお医者さま」 婦人朝日 1956.04.[国立国会図書館所蔵]
 みこちゃんが道をかけていると、お医者さまが自転車で来るのが見えました。あわててにげだすとゲタのはなおがきれてしまいました。かばんをあけるお医者さま。注射?
 「読者投稿・わたしの童話・入選」(与田準一選)の一編。山田ふみおちゃんの家へ往診にいく途中で出会ったわけですが、かばんをあけるとことなど、どきどきさせる構成はさすが。(2003.06.15)

「おせんべ やけたか」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』収録
 おとうさんぐまがまちでタロクマのおみやげをかっています。セーター、かざぐるま、おせんべい。かえりに出会ったこんこんぎつねのこん吉、たぬきのかあさん、おさるのきいすけ。おれいにあげましょう。
 たべるまね、って。終わりがないほのぼのとした遊びは冬ごもりに最適かもしれない。(2016.09.22)

「きんぎょやさん」 母の友 1956.05.[北海道立図書館、国立国会図書館所蔵]
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎのきんぎょやさんごっこ。まっくろなきんぎょです。
 1ページだけのお話ですが、遊びのようすが生き生きと描かれています。(2001.09.23)

「大きなこうもりがさ」 母の友 1956.06.[国立国会図書館所蔵]
 きょうもあめ。みどりいろのかさがひとりであるいているようです。きつねのおばあさんはききます。おつかい? ピコピコうさぎとポコポコうさぎは、ちがうよ、といいます。
 1ページのお話。きつねのおばあさんを通してにより微笑ましい風景を感じる。(2002.07.23)

「くもの上の がっこう」 母の友 1956.08.[国立国会図書館所蔵]
 くもの上のかみなりがっこうで夕だちをふらせるべんきょうです。いなびかりの次はあめをふらせるおけいこです。せいとのひとりがいいました。ちょっとまちましょうよ。
 1ページのお話。のどかな話だが、そのようなことがあってもおかしくない気にさせられる。(2002.07.23)

「おばあさんは だあれ」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』収録
 いつも幼稚園のかきねの外にたってこちらを見ている銀色の髪のおばあさん。ある夕方、ゆうちゃんはおつかい帰りに足をすべらせてしまいました。幼稚園ですな遊びをしていたおばあさん。すり傷にハンカチをあててくれました。おばあさんが来なくなり、ハンカチを返そうとおかあさんと一緒に訪ねると。
 ふしぎ、なみだ、わらい、良い取り合わせかも。今なら不審者で即通報されかねない状況かも。(2016.09.22)

「しんせつ たぬき」 婦人朝日 1956.09. [国立国会図書館所蔵]
 子だぬきのタァ坊はおばあさんにいわれ、しんせつすることないかなあ、と歩いていきます。タロブタちゃんとジロブタちゃん、牛のおじさん、あかちゃんどり。むずかしいものだなあ。
 2ページのお話。選評には「文学的には、みがかれていません。けれども、よけいな修飾ぬきです」や「具体的な事件のつみかさねは、幼児を喜ばせるでしょう」とあります。そう、作者の意図通り。親切とありがた迷惑、難しいものです。(2004.07.24)

「王さまになったペペ」 母の友 1956.12.[都立図書館所蔵]
 「王さまになりたいな」とぺぺ。王さまはあたまにとりのはね、てくびにうでわ、くびにくびかざりをしている。とおかあちゃん、おおむ、おさるがいいます。「おしゃれしただけでは」とかめ。そのとき、「たすけて」というしかのこえが。
 2ページのお話。王さまというより王者になったペペ。ある意味、鋭いところをついている。(2003.06.15)

「チューリップのねっこ」 おかあさまブック(幼稚園ブック付録) 学習研究社 1957.01.
 不詳

「歯医者さんとカラス」 小さい仲間 1957.01.[国立国会図書館所蔵]
 歯医者さんのもとにカラスが訪れました。妻のくちばしがハヤブサからこどもたちを守った時に折られたというので直して欲しいというのです。
 カラスと歯医者さんとのやりとりがユーモラスに描かれています。くちばしを歯医者になどカラスと人間の価値観の同一性と相違点・ズレの発想が面白い。(2007.03.13)

「おちてきた こびと」 母の友 1957.04.[国立国会図書館所蔵]
 ネズミのチュウ子ちゃんがこびとをみつけると、ききました。ぼく、おつきさまからおちてきたんだ。どうしたらかえれるかなあ。チュウ子ちゃんはふくろをふくらませることをおもいつきましたがちっともあがりません。そうだ、たのしいこえならかるくおつきさままでとんでいくんだよ。
 2ページのお話。こびとが落ちた理由が月の磨きすぎだったり、楽しい声をい入れる発想やその逆など読んでいて楽しい作品。(2002.07.23)

「海べへ行ったリス」 母の友 1957.07.[国立国会図書館所蔵]
 お山のあかちゃんリスがびょうきになりました。トンビのおいしゃさんはマクリという草でなおるといいます。かあさんリスは海までとりにいきます。犬のうんてんしゅさんやカニのしんせつにありがとう。
 2ページのお話。犬の運転手は切符がないからバスの屋根に、とかカニがリスを尻尾の大きなネズミと形容するあたりは面白い。(2002.07.23)

「子がに と かきの実」 母の友 1957.10.[国立国会図書館所蔵]
 子がにのコウ子ちゃんは、かきの実がほしくてにいさんにたのみましたが木にはのぼれません。おさるのにいさんにたのもうとしましたが、さるとかにはなかがわるいといってでとってくれません。でも弟のキイぼうはちがいます。
 2ページのお話。新しい世代では新しい関係という含みがあるかも。(2002.07.23)

「山の大男」 母の友 1957.12.[国立国会図書館所蔵]
 山の大男がマキをあつめているとき、山のこどもの太郎ちゃんのうちをけとばしてしまいました。
 1ページのお話。大男がユーモラスに描かれている。(2002.07.23)

おまけ (『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』に収録されるとは!)
 母の友 昭和32年12月号には「ミステリー「猫は知っていた」で 江戸川乱歩新人賞を得た 大井三重子さん」という記事があります。
 「メルヘンをかく」では昭和29年の秋に初めて母の友に投稿、
 「生い立ち」では病気のことなど、
 「まわりの人びと」では童話のウサギやタヌキの母子のモデルは兄よめや甥姪らであり批判者でもあるという。
 今後のこととして以下のコメントがある。
 「私には童話の方が大切です。世間は、カリエスでねたままの病人が、こんなのをかいたというので、さわぐのでしょうね。」チラッとさびしそうなかげがよぎる。「できれば子どものためのミステリー、小っちゃい子のための、ユメのあるなぞときもの…などかいてみたい。」…しずかなことばだった。

「ヒミツの宝ばこ」 母の友 1958.01.[国立国会図書館所蔵]
 子ウサギのピョン三郎はお正月のこずかいの残りをカンパすることにしました。ヒミツの宝ばこのありかはね、ぴょん、ぴょん、ぴょん。ない――。
 推理童話とのこと。伏線や条件限定はしっかりしている。(2002.12.29)

「三つのげきあそび」 『小学校学校劇脚本文庫』(日本演劇教育連盟編)国土社 1959.12.20[都立多摩図書館所蔵]
 脚本三編。
「ひろいもの」は、おんなの子の忘れ物を奪い合う子ぎつねと子うさぎとおじぞうさまの話。
「ぞうさんとねずみたち」は、ねずみの幼稚園に来たぞうさんを園児が先生に報告する話。
「おほしさまとやっこだこ」は、風にとばされた迷子のやっこだこを帰そうとする話。
 寸劇で大井童話の延長線上にある作品。ねずみがぞうの特徴の一部をとらえて先生に言うくだりはクイズや連想ゲームを思わせて少しおもしろい。(2003.01.29)

「すべり台とこどもたち」 基督教保育 1960.07.[国立国会図書館所蔵]
 雨がやんでみんなやって来るだろう、とすべり台がひとりごと。男の子がはしごに足をぶつけました。あばあさんと男の子は悪いすべり台だとたたいて行ってしまいました。しんちゃん、のぶ子ちゃん、タケシちゃんが来ます。タケシちゃんも足をぶつけてしまいました。のぶ子ちゃんはおまじないをします。痛い痛いは吹っとべえ!
 良い話です。時代を感ぜず、現代でもそのまま通用する作品。(2004.05.05)

「高く高く」 基督教保育 1960.08.[国立国会図書館所蔵]
 アリのアントくんと妹のアマイゼちゃんが高い草のくきを見つけました。お日さまのくきじゃない? 二人はのぼりはじめました。みのむしやちょうちょやとんぼに出会いながら登っていきます。お日さまだ!
 とんぼのせなかにのせてあげようかというのを「せっかくここまで」という理由でのみ断ったりするのは好感がもてる。大人だと向日葵とすぐわかるがその結末は意表をつかれました。(2004.05.05)

「ひろこちゃんのまくら」 基督教保育 1960.09.[国立国会図書館所蔵]
 ひろこちゃんのまくらは、あかちゃんだったとききていた、おべべのきれで、おかあさんがぬってくださった、まっかな、まっかな、まくらです。くしゃみのひょうしに、まくちゃんをおとしてしまいました。まくちゃんのおべべをせんたくしていると、おとなりの、のぼるくんがしょんぼりしています。おかあさんがびょういんへいっちゃったの。
 この作品は良くわかりませんでした。子供の時から母性をもっているという事なのでしょうか。(2004.05.05)

「よそいきの ふくと ころっけ」 『新編童話教室 一年のどうわ』所載[子ども図書館所蔵]
 まさあきちゃんとすえちゃんはおままごとをしています。きれいなふくををきたけいこちゃんが「いれてえ」と。まさあきちゃんはけいこちゃんにいわれてよそいきのふくにきがえてこようとしたのですが「やあめたっ」と。
 まさあきちゃんの気遣いで仲間はずれにならずにすんだすえちゃん。けいこちゃんが仲間はずれになるはずですが、ころっけ作りでならなかったのは結果オーライ? 難しい問題を工夫して処理しているが安易な感じはぬぐえない。(2003.07.06)

「うそつきのきつね」 『日本イソップ 二年生』(佐藤義美編)小峰書店 1961.04.20[都立多摩図書館所蔵]
 きつねとたぬきは、すなのおさとうとおまんじゅうをとりかえっこしました。きつねはつぎにあんのかわりにどろが入ったおまんじゅうとしおざけをとりかえました。ふゆになり、かわにはこおりがはっていました。わたろうとしたきつねは……。
 ありがちな寓話だが、単なる因果応報に終わっていないのが大井三重子らしい。(2003.06.18)

「タックバウエル博士とおさな友だち」 月刊キリスト 1961.10.,11 [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 名医だったタックバウエル博士は奥さんが亡くなって何もする気になれず病院も閉じてしまいました。なおせない病気はない、とまで言っていたのですがユリが好きな奥さんはなおりませんでした。数年後、ヤマユリが一本折れているのでなおしたいと植木屋が入ってきました。ユリの花の医者。見おぼえのある顔だが。
 いろいろな受け取り方ができそう。無医村問題も医者の研究心に理解を示すなどは珍しく思う。また第二の人生という事もあり、年齢を重ねた人向けの稀有な童話にもなっている。(2016.09.22)

「おおきならっぱ」 小学館の幼稚園 1962.03. [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 があこちゃんがらっぱをかいました。ぶっぶっぶう。うるさいなあ。らっぱをとりあげてしまえ。
 「読んで聞かせるお話」という副題の絵物語。幼稚園児向けだけあって単純明快。(2011.09.23)

「ふもとからきたくま」 小学館の幼稚園 1965.04. [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 みみ子が見たこともない大きなけものが山おくのうさぎの村にやってきました。くまははたらいています。
 「創作童話」。時代を感じさせる作品。山奥ならそのとうな状況だったのだろうか。(2011.09.23)

「カシの木の下のせんたくや」 家庭の教育 1965.06. [国立国会図書館所蔵]
 おかあさんにワイシャツをせんたくやさんへ持っていくよう頼まれたうさぎのピョン一郎。クマキチおじさんはせんたく機をほらあなから出してうごかし、そして歌いはじめます。干して乾かす間は一緒に遊んで配達を手伝います。おや、白いハンカチが一枚残っている。
 看板の「クロクマ・クリーニング」「なんでもまっしろ」や歌など対比がユーモラスで面白い。伏線もあってミステリー味もある。傑作。(2004.07.24)

「あたらしいきかんしゃ(紙芝居)」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』収録
 あたらしいきかんしゃがきました。きゃくしゃがいっぱいつながって、おもたい、おもたいよお。いちろうとよっこはおとうさんへてがみをとどけにいきます。あたらしいきかんしゃが町までつれていってくれるのでだいじょうぶだよ。
 機関車が迷子になるのを心配するなどはユーモラスではある。教育用途と思われるだけに話の面白味はない。(2016.09.22)

「とべとべ車いす」 びわの実学校 1970.02. [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 進は小児マヒで車いすに座っています。窓のそとは雪。白い帽子をかぶった男の子だ。窓ガラスをたたいて男の子は進むに言います。きみにたのみがあるんだ。
 自家薬籠の題材。車いすと雪は合うのかもしれない。進である必然性も多少考慮されており動と静の対称はさすが。佳作。(2011.09.23)

「林の中であったはなし」 大きなタネ 1970.05. [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 ぼくは、絵かきなんです。ぞうき林を抜けてあきちの枯れ草の上にすわりました。イタチです。でてこいよ。イタチの絵もかけますか?
 伏線が見事。ユーモラスな中に風刺も効いている。どこかに再録されても良いような秀作。(2011.09.23) やはり好きな作品。童話でもあり寓話でもありファンタジーでもある。(2016.09.22)

「ま夜中のけっこんしき」 小学二年生 1975.12. [国立国会図書館デジタルライブラリー]
 アコちゃんの誕生日です。看護婦のあかあさんは帰ってこられません。夜中にバルコニーにでてみるとコオロギにたのまれます。花よめさんのつきそいになってくれませんか?
 創作童話。結婚式のカップルの組み合わせが奇抜ではありますが、低学年向けという事もあって安易。(2011.09.23)

「たっちゃんが たっちゃんと たっちゃんにあったはなし」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』収録
 あらいたつひこのたっちゃんが赤とんぼを追っていくとあらいたつおのたっちゃんに出会いました。こんどはあらいたつへいのたっちゃんに出会いました。知らないの? いろいろなこと知ってるね。
 タイムトンネルというか、三世代の子供が会する話。同じ場所の団地に移ったのだろうか。時間だけでなく場所も混在したのだろうか。知っている知らないと不思議が不思議でないと、妙な感覚がする。(2016.09.22)

「子うさぎと花輪」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。ピコピコうさぎはおじそう様に花輪をつくっています。ポコにもつくって。だめ、といってピコピコうさぎはかけだします。
 クローバーは花? うさぎらしさもあるが内容はありきたり。(2016.09.22)

「春のにおい」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。くまおじさんの写生についてきました。何を書こうかな。あ、きしゃぽっぽだ。
 北の国からと南の国からの汽車。共に花という発想は良いかも。(2016.09.22)

「あらしのあと」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。おかあさんうさぎはおうちがあらしに流されたいたちさんのためにピコやポコのきられなくなったようふくをさがしています。おもちゃもなくなってしまたのよ。
 おかあさんうさぎが釘をさすところは一歩うわて。(2016.09.22)

「子うさぎのほうそうきょく」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。おかあさん、このミカン箱ちょうだい。できた、ラジオができた。
 最初はラジオ局のスタジオかと思ったらラジオ受信機でボタンはマイクではなくつまみか。四角の穴をあければテレビだがまだ放送開始前。ジェイ・オー・ピコ・ピコは語感も良くナイス。おかあさんうさぎのノリも。(2016.09.22)

「おるすばん」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。だれかきたらとをあけないできくのよ、とおかあさんうさぎはでかけました。おるすばんです。たぬきのくずやです。あとできてね。あれ、がまぐちを落としていったわ。
 さて、戸をあけないでどうする? 戸の下の節穴からのぞいている。まるでミステリー仕立て。と一瞬思ったがさにあらず。少しもえらくない。残念。(2016.09.22)

「あぶく屋さん」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。ポコポコうさぎはおふろであぶくをつくっています。ポコはあぶく屋さんだからめえちゃんが買いにきたら売ってあげなきゃだめよ。
 おかあさんうさぎの嘆きが。兄嫁の実話を甥姪に聞かせたかったのかもしれない。(2016.09.22)

「たき火」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。たき火してるの、入ってらっしゃい。子じかのシロゲちゃんがよびます。古いむしろやなわを燃やします。いいにおいがするわね。
 今ではたき火もできない。ダイオキシンが。(2016.09.22)

「おじいさんとおばあさん」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。きょうのおとうさんはだいくさんです。じょうずだねえ。ポコも大きくなったらもっとじょうずにできるかもしれないよ。
 日曜大工、上手にできるのは材料と工具が良くなるからだったりして。家電によってゆっくりお茶を飲めるし。(2016.09.22)

「こたつ」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。ピコピコうさぎにはだいこくさまの、ポコポコうさぎにはゾウのしょうぼうじどうしゃのエホン。みちゃだめ、みせてあげない。こたつをけりあいます。ポコのくつしたが。
 カンカンブーブって擬音、今も通じるだろうか。こたつは櫓ごたつのようだが熱源は炭だろうか。よくわからない。(2016.09.22)

「花火」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。こんばん花火をしよう、おとうさんがうさぎがいいました。はやくよるにならないかなあ。
 たのしみにしているようすのみで実際にやった描写はない。書けなかったのかもしれないが。(2016.09.22)

「おじぞうさまとビスケット」 『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ピコピコうさぎとポコポコうさぎ。おひがんになったのにだれもおじぞうさんにおだんごをあげない。子うさぎたちはABCのかたちのビスケットをおじぞうさまにあげます。おさるのキャックルは食べたそうです。
 少し残酷な感じがするのは気のせいか。無邪気なのかもしれないが。(2016.09.22)

「ものずきな あくま」  『タワーの下の子どもたち 仁木悦子少年小説コレクション(3)』
 ものずきなあくまは耳たぶにほくろのある娘を追っていきます。あくまの好きだった女の子のほくろと同じ場所でした。流しのバイオリンひきはその女の子のやさしさに惹かれていました。あくまはかげでバイオリン弾きの作曲の手伝いをします。コンクールで入賞し、美しいおじょうさんとも仲良くなります。そこへものずきなあくまの親友が知らせをもってやってきました。そして二十年。
 哀愁をおびた作品。人間に見えないだけで結局あくまの昔の流行曲を口ずさむ事しかしていないような。悪魔のささやきの変形なのか。ラストはあくまらしくない。ものずきなあくまだからか。(2016.09.22)


※『水曜日のクルト』『消えたおじさん』に関しては、たっくんさまのご厚意により読まさせて頂くことができました。御礼申し上げます。

※[北海道立図書館所蔵]分に関しては、成田さま、おげまるさま、月うさぎさまのご厚意により読まさせて頂くことができました。御礼申し上げます。

※「やきいもの歌」「そのとき10時の鐘が鳴った」「影は死んでいた」に関しては、その存在を戸田さまにより教えて頂きました。御礼申し上げます。

※「やきいもの歌」に関しては、菊陽町図書館さまのご厚意により読まさせて頂くことができました。御礼申し上げます。

※「なぞの写真」に関しては、その存在をアイナットさま、匿名希望さま ほか により、密室系BBSにて教えて頂きました。御礼申し上げます。

※「ふみきりのおじいさん」「みこちゃんとお医者さま」「すべり台とこどもたち」「高く高く」「ひろこちゃんのまくら」「消えたリュックサック」「七百まいの一円玉」「口笛たんてい局」「カシの木の下のせんたくや」に関しては、その存在をつなさまの
「仁木悦子メモリアル」にて教えて頂きました。御礼申し上げます。

※その他、おじずさま、小林文庫オーナーさまにもお世話になりました。御礼申し上げます。

※所蔵館に関しては当時のものです。現在は『仁木悦子少年小説コレクション』に収録されています。

※『仁木悦子少年小説コレクション』に大井三重子作品の追加を応援して下さった皆様方に感謝しつつ。


Top Page母屋仁木悦子の部屋 ← 現在地
Page の先頭へ 夢現半球