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快楽亭ブラック(初代) 作品

Since: 2021.10.03
Last Update: 2023.09.24
略年譜 - 講談・落語など - 著書 - おまけ

      快楽亭ブラック(かいらくていぶらっく)略年譜

    1858.12.22(安政5年12月22日)  オーストラリア、アデレードに生まれる。本名、ヘンリー・ジェイムズ・ブラック。
    1865.xx.  両親と共に横浜に住む
    1872.xx.  東京に移る
    1876.xx.  浅草の寄席に出演(手品など)
    1876.xx.  一時帰国
    1878.xx.  再来日
    1879.12.(春から?)  口演を始める
    1886.xx.  英語学校を始める
    1886.12.  「草葉の露」を刊行
    1891.03.  芸名を快楽亭ブラックとする
    1892.07.  「血汐の手形」(「幻燈」)を刊行、指紋を扱った世界初の犯罪小説
    1892.08.  演劇で幡隋院長兵衛を演じる
    1893.04.  帰化して石井貌剌屈となる
    1903.xx.  レコードに録音(日本初)
    1908.09.  自殺未遂
    1923.09.19(大正12年)  死去

    筆名(芸名)は、快楽亭ブラック、ヘンリー・ゼエムス(ゼームス)・ブラック、英(国)人ブラック、石井ブラック、(舞楽、貌剌屈)

      (国DC)は国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されています
      (国DC※)は国立国会図書館デジタルコレクション個人送信(ログイン必要)で公開されています(今後非公開になる可能性もあります)
      (青空)は青空文庫でインターネット公開されています
      (法政)は法政大学学術機関リポジトリでインターネット公開されています
      (夢現)は「おまけ」で公開しています



      翻案講談、創作講談、落語など

  1. 「草葉の露」
    原作:「花と雑草」 ブレドン女史(メアリー・ブラドン)
    ( 『小説 草葉の露』ブラック口述、市東謙吉記 日就社 1886.12. )(国DC)
    ( 『小説 草葉の露』ブラック口述、市東謙吉記 金港堂 1886.12. (販売か版移行か?) )
  2. 「流の暁」 (「倫敦の双児」「双子の犯罪」)
    原作:「二人孤児」
    ( やまと新聞 (今村次郎速記) 1891.02.01〜03.27 )
    ( 『流の暁』(快楽亭ブラック講演、今村次郎速記) 三友舎 1891.09.18 )(国DC)
    ( 『倫敦の双児』 三友舎 1892.01. )
    ( 『双子の犯罪』 鐘美堂 1896.05. )
    『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
     仏国貴族の沢辺保はフランス革命の騒動のために英国へと遁れます。やがて農民のおせんと結婚します。ナポレオンの時代になり沢辺は一人帰国、残されたおせんは双児を生みますが育てられず母は一人をテムズ川に投げてしまいます。拾った浦五郎夫婦は丈治と名付け育て、金貸の文兵衛の番頭にまでなります。丈治は祖母と母と双児の兄弟次郎吉に出会い悪の道。次郎吉を身代りにパリに逃げます。俳優栄三郎とおるいの密会をネタに強請ろうとしますが……。
     双児ネタや強請の算段など面白い。不整合部分や思わせぶりでそのままの部分などあるが続き口演であれば気にならないかも。元ネタはありそう。
  3. 「英国の落話(落語)」 (「ビールの賭飲み」)
    ( 百花園 1891.03. )
    ( 文藝倶楽部 1904.11. )
     ※名作落語「試し酒」の原話ともいわれる作品、「ビールの賭飲み」は改訂版との事
  4. 「切なる罪」
    ( やまと新聞 (今村次郎速記) 1891.05.08〜06.21 )
    ( 『切なる罪』(快楽亭ブラック講演、今村次郎速記) 銀花堂 1891.10.21 )(国DC)
    ( 『探偵文庫』(快楽亭ブラック講演、今村次郎速記) 銀花堂 1893.11.18 )(国DC)
     英国ベドフード村に化学士の高山祐吉老人が娘おきくと暮しております。十一年前には胃病と思われたが成分調査依頼で硝子粉が原因と突き止めた事もあります。村では天国先生の人体エレキの興業が行われ、助手のお花が金満家齋藤幸造を見て栄三郎さん、と舞台で声をかけてしまいます。幸造は女房お松が硝子粉でお花に殺されたが逃げてしまったと高山老に相談します。土屋金三郎の密告により捕らえられ、廣川元吉の弁護活動、増田探偵のリバプールでのお花探査、裁判が始まり……。
     殺害方法として当時新味があったかどうかは不明。人体エレキは催眠術か心霊術か。宗教的要素も強く、少なくとも元ネタはあったと思われる。
  5. 「活耶死耶序」
    ( 『活耶死耶』悽動小史(「序」ヘンリー・ゼームス・ブラック、今村次郎速記) 上田屋 1891.07.14 )(国DC)
     ※『涙香外伝』伊藤秀雄 に部分引用あり
  6. 「劇場土産」 (「パースの犯罪」)
    ( 『英国龍動 劇場土産』(快楽亭ブラック口演、福島昇六速記) 銀花堂 1891.08.01 )(国DC)
    ( 『探偵談 パースの犯罪』福島昇六速記 野村銀次郎(銀花堂) 1895.10.28 )(国DC)
     龍動(ロンドン)より十七八里、ルイスという田舎町にベニュウェルという百姓がおりました。一人娘のガーツルドを溺愛しております。初めてロンドンへ参ったガーツルド、叔母のもとで着物を整えアデルフィ座へ行きます。スメルリーを見て良い男、親に内緒で結婚し、帰りますが勘当と相なります。ペイペイ役者のスメルリーは呑むに打つ。お金も尽きてガーツルドは役者になる決心をします。評判になったガーツルドをジョン・ブラウン男爵が見染めますが結婚しているのを知り変装してスメルリーを殺害する事になります。利益を得る者は……。
     犯罪心理でもあるが探偵味は薄い。英国と日本との違いの部分は面白い。
  7. 「薔薇娘」
    ( 『探偵小説 薔薇娘』(快楽亭ブラック訳述、今村次郎速記) 三友舎 1891.09.29 )(国DC)
     探偵大村馨は暗号文により独逸人化学士西野武の皇太子暗殺計画の一端をつかむ。花売り娘で西野の妹お梅は迷蔵遊戯(かくれんぼ?)で皇太子に隠れ場所を教えている。川路清警視総監から手配された松本探偵らと計り首尾よくお梅と花屋の雲井と懇意になる。暗号文など証拠を探す大村探偵。仮面力士と雲井との角力(レスリング)対決。皇太子暗殺を防ぐ為に……。
     暗号文の争奪、炭酸ガスによる皇太子暗殺計画の阻止など探偵活躍譚ではあるが、文武地位容貌に優れた探偵だけに私的には魅力に欠ける。また変な形容描写が多く展開の妨げになっている。ナポレオン3世の治世であろうか、中途半端な思想も邪魔。部分的には面白くもあるが。元ネタがあっての口演ではなく、口述翻訳そのままとも思えるが。
  8. 「車中の毒針」
    ( 『探偵小説 車中の毒針』(快楽亭ブラック演述、今村次郎速記) 鈴木金輔(三友舎) 1891.10.19 )(国DC)
    ( 『車中の毒針』 聚栄堂、大川屋書店 1891.10.19 (重版) )
    『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
     巴里(パリ)、最終馬車に譲ってもらい乗車した婦人が終点に着いた時には死んでいました。画家加納元吉は車中にて着物を留める針を拾います。翌日訪ねてきた伊藤次郎吉は針で猫を引っかくと死んでしまいました。加納は山田金三郎先生、娘お高と会った帰りでした。伊藤は代言人土屋弥平の助力で下宿先を突き止め、お千代がモルグで鈴木おかつと確認し弔います。加納のモデルをしていた鈴木おのぶは姉だと知って卒倒します。山田先生は兄の番頭井上から遺言状の内容を聞いて……。
     計画は緻密なのか杜撰なのか、断続情報にも時代を感じる。そこが次の展開がどうなるかわからないという面白さではあるが。
  9. 「岩出銀行血汐の手形」 (「幻燈」)
    ( 演藝腕競東錦第3號 (快楽亭ブラック演述、今村次郎速記、石原朋倫速記) 三友舎 1892.07. )
    ( 『探偵小説 幻燈』ブラック口演、今村次郎速記 三友舎 1892.12.08 )
    ( 『幽霊』黒岩涙香ほか(「血汐の手形」ブラック講演、今村次郎速記) 弘文館 1902.07.18 )
    ( 『幽霊』黒岩涙香ほか(「血汐の手形」ブラック講演、今村次郎速記) 大川屋書店 1912.08.08 (再版) )
    『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
    『落語推理迷宮亭 ミステリー名演集』山前譲編 光文社文庫(や-22-06) 2017.01.20
     倫敦の銀行家岩出義雄、紙入れを盗んだが自首した山田又七を哀れに思い、引き取って教育を与えます。長じて又七は岩出の娘のおまさと相思相愛、恩を忘れたとして二百円の餞別を与えられ免職となります。その夜岩出は殺され又七は捕らえられます。おまさは叔父の代言人岩出竹次郎に相談します。警察の探偵永井宗三郎、現場に血の手形があったと言います。竹次郎は日本には拇印なるものがあり証拠になると銀行員皆の手印を順に幻燈機にて比較、映させます。すると……。
     創作と思われる。当時の最先端の科学が解決手段となる探偵小説。
  10. 「剣の刃渡」 (「神田武太郎」「かる業武太郎」「曲芸師」)
    ( やまと新聞 (今村次郎速記) 1892.12.04〜1893.01.25 )
    ( 『剣の刃渡』(快楽亭ブラック講演、今村次郎速記) 文錦堂 1895.07.01 )(国DC)
    ( 『探偵実話 神田武太郎』(快楽亭ブラック口演、今村次郎速記) 菅谷与吉 1900.09.20 (国09.30) )(国DC)
    ( 『かる業武太郎』 金槇堂 1901.07.xx )
    ( 講談倶楽部 (抄録) 1920.05.〜07. )
    『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
     倫敦北部、発明家松本儀兵と娘おしず。賊に入られ追うお静、軽業小屋へと入っていきます。おしずは太夫世界亭東一を見て泥棒と叫びます。とりなす共同事業者の息子島田市太郎と片野芳造、戻りますと儀兵は死んでおりました。東一は捕まりますが証拠不十分で釈放。仇を討とうとおしずは軽業小屋で出会った東一に妻おみねを奪われた山中清兵衛と鶴松親子。東一の飼い犬赤が隠れ家を見付けます。捕らえられる親子、おしずは神田武太郎に助けられます。おみねは田中おはるとして片野芳造と、武太郎はおしずと懇意になっていきますが市太郎は……。
     話の展開がどうなるか、刃渡りのような作品。犯人/探偵共に計略、計画性には乏しい。犬に追わせるところは面白い。
  11. 「なつの虫」
    ( やまと新聞 (快楽亭ブラック口演、快楽亭コミク筆記) 1893.12.20〜1894.01.03 )
     ※Web Site「はなしの名どころ」参照
     贋株券、隠し文字、悪女要素などが盛り込まれているもよう。
  12. 「孤児」
    原作:「オリヴァー・ツイスト」 ディケンズ
    ( やまと新聞付録 1894.05.28、06.21.、07.23 )
    ( 『英国実話 孤児』(快楽亭ブラック口演、今村次郎速記) 金桜堂 1896.07.19 )(国DC)
    ( 『講談実話 高橋清吉』 日吉堂 1900.10.10 )(国DC)
  13. 「身中の虫」
    ( やまと新聞 (快楽亭ブラック口演、快楽亭コミク筆記) 1894.08.03〜09.16 )
     ※Web Site「はなしの名どころ」参照
     同名異地、顏なし死体などが盛り込まれているもよう。
  14. 「(春風閑話)(インタビュー)」 (「実歴談」「自伝」)
    ( 讀賣新聞 (関如来) 1896.04.30〜05.04 )
    ( 『当世名家蓄音機』関如来編 文禄堂 1900.10.07 )(国DC)
    ( 文藝倶楽部増刊 (二洲橋生) 1905.10. )
    ( 『ポケット名家一夕話』鹿島生編 日吉堂 1911.05. )(国DC※)
    ( 『落語三百年 明治・大正の巻』小島貞二編 毎日新聞社 1966.xx. )
     父は横浜で新聞エラルド、東京でガゼット、明治五年に日新眞事誌を発行。左院御用掛となるが明治九年一時帰国。明治十一年母と東京へ。明治八年頃一時横浜滞在。祖先はスコットランドのダンツハームリン。軍人家系。伯圓と演説。間もなくやめて英語学校開設。明治二十四年落語家に。演劇にも出演。落語改良論。
     ※2種類混在の可能性あり
  15. 「石井プラツク 昔の道中咄」
    ( 旅 1903.09. )(夢現)
     明治初期に父の依頼で東京から横浜へ馬で一人行った時の話。
     ホラーのようでもあるが、さすが時代を感じる。
  16. 「煙草好き(落語)」 (「たばこ好き」)
    ( 文藝倶楽部増刊 1905.10. )
    ( 『落語名作全集5』小島貞二編 立風書房 1968.02.10 )(国DC※)
    ( 『名人名演落語全集3』斎藤忠市郎ほか編 立風書房 1982.08. )
     ペストについて、タバコについて。ロンドンの豪商井上初三郎が病気の友人伊藤の依頼で遺言状をしたために行く。帰りにパイプを吸いながら医者に聞くとペストだという。パイプをチョッキのポケットに入れて……。
  17. 「時計の媒介(人情噺)」
    ( 講談倶楽部 (石井ブラック演) 1912.09. )
     ※Web Site「はなしの名どころ」参照
     盗難騒動はあるようだが探偵味はなさそう。落し噺でもなさそう。



      著書

  1. 『小説 草葉の露』 日就社 1886.12. (国DC)
    △「序」饗庭篁村/△「序」春の舎朧/△「自序」市東謙吉/△「例言」市東謙吉/「草葉の露」ブラック口述、市東謙吉記、大蘇芳年挿画
    『小説 草葉の露』 金港堂 1886.12.
     ※販売か版移行か?
  2. 『容易独修 英和会話篇』ヘンリー・ゼエムス・ブラック編 中外堂 1887.02. (国DC)
    △「PREFACE (無題)」THE AUTHOR (編者)/「VOCABULARY」「CONVERSATION」
  3. 『男女成美 化粧法』ブラック編、高松元吉訳 高松元吉 1891.05.12 (国DC)
    「男女成美 化粧法」
  4. 『流の暁』 三友舎 1891.09.18 (国DC)
    △「流の暁の序」芳川春濤/「流の暁」快楽亭ブラック講演、今村次郎速記
    『倫敦の双児』 三友舎 1892.01.
    『双子の犯罪』 鐘美堂 1896.05.
  5. 『切なる罪』 銀花堂 1891.10.21 (国DC)
    「切なる罪」快楽亭ブラック講演、今村次郎速記
  6. 『英国龍動 劇場土産』 銀花堂 1891.08.01 (国DC)
    「劇場土産」快楽亭ブラック口演、福島昇六速記
    『探偵談 パースの犯罪』 野村銀次郎(銀花堂) 1895.10.28 (国DC)
    「探偵談 パースの犯罪」福島昇六速記
  7. 『探偵小説 薔薇娘』 三友舎 1891.09.29 (国DC)
    △「薔薇娘序」吐鳳散士/「薔薇娘」快楽亭ブラック訳述、今村次郎速記
  8. 『探偵小説 車中の毒針』 鈴木金輔(三友舎) 1891.10.19 (国DC)
    △「叙」水石隠士/「車中の毒針」快楽亭ブラック演述、今村次郎速記
    『車中の毒針』 聚栄堂、大川屋書店 1891.10.19 (重版)
  9. 『探偵小説 幻燈』 三友舎 1892.12.08
    「幻燈」(序文有無不詳)
  10. 『探偵文庫』 銀花堂 1893.11.18 (国DC)
    △「人耶鬼耶緒言」涙香小史/「裁判小説 人耶鬼耶」涙香小史訳述/「切なる罪」ブラック講演、今村次郎速記/「佳人之血涙序」荷香逸人/「政治小説 佳人之血涙」ジュール・ベルヌ原著、井上勤訳述/「西洋珍説 人肉質入裁判」シェークスピア原著、井上勤訳述/「(無題)」読破書斎主人/「(ドナルド・ダイキ)」涙香小史訳述
  11. 『理化応用 智しきの友』ブラック述 金港堂書籍 1894.06.23 (国DC)
    △「緒言」編者/「理化応用 智しきの友」(「手品師カ用ユル不思議筒」「空中ニ生首ヲ現出スル法」「空中に半体ヲ現ハス法」などもあり)
  12. 『剣の刃渡』 文錦堂 1895.07.01 (国DC)
    △「剣の刃渡り序」柳煙痴史/「剣の刃渡」ブラック講演、今村次郎速記
    『探偵実話 神田武太郎』 菅谷与吉 1900.09.20 (国09.30) (国DC)
    △「探偵実話 神田武太郎」柳煙痴史/「探偵実話 神田武太郎」今村次郎速記
    『かる業武太郎』 金槇堂 1901.07.xx
  13. 『英国実話 孤児』 金桜堂 1896.07.19 (国07.29) (国DC)
    △「孤児序」秋郊庵錦羅/「孤児」快楽亭ブラック口演、今村次郎速記
    『講談実話 高橋清吉』 日吉堂 1900.10.10 (国DC)
    △「序」秋郊庵錦羅/「高橋清吉」
  14. 『幽霊』 弘文館 1902.07.18
    (△「序」小説館の主人)未確認/「幽霊」黒岩涙香/「岩出銀行血汐の手形」ブラック講演、今村次郎速記
    『幽霊』 大川屋書店 1912.08.08 (再版)
    △「序」小説館の主人/「幽霊」黒岩涙香/「岩出銀行血汐の手形」ブラック
  15. 『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
    「流の暁」/「車中の毒針」/「幻燈」/「かる業武太郎」/☆「快楽亭ブラック年譜」伊藤秀雄/△「解説」伊藤秀雄



      参考文献

  1. 「快楽亭ブラック年譜」「解説」伊藤秀雄
    『快楽亭ブラック集 明治探偵冒険小説集2』伊藤秀雄編 ちくま文庫(め-02-02) 2005.05.10
  2. 「涙香につづく人々 快楽亭ブラック」伊藤秀雄
    『明治の探偵小説』伊藤秀雄 晶文社 1986.10.25
    『明治の探偵小説 日本推理作家協会賞受賞作全集56』伊藤秀雄 双葉文庫(い-30-01) 2002.02.20
  3. 「快楽亭ブラックについて」伊藤秀雄
    『涙香外伝』伊藤秀雄 三一書房 1995.06.30
  4. 「明治の指紋小説」江戸川乱歩
    『探偵小説の謎』江戸川乱歩 現代教養文庫(0137) 1956.06.25 (青空)
  5. 「江戸川乱歩蔵書データベース」
    『幻影の蔵』山前譲編、新保博久編 東京書籍 2002.10.10
  6. 「快楽亭ブラック伝」小島貞二
    『快楽亭ブラック伝』小島貞二 恒文社 1997.08.
  7. 「ジョン・レディ・ブラック関係の論文(複数)」奥武則 (法政)
  8. Web Site「はなしの名どころ」 ※やまと新聞関係、各種あらすじ
  9. YouTubeにあがっている音源
  10. その他多数



      おまけ

「石井プラツク 昔の道中咄」
「旅」 1903.09. (明治36年9月) より

●大小と鐵砲   旅の事に就きまして何か面白い話はないかとのお尋ねでございやスが、しかし私も興行の爲め日本全國を大體九州から北海道の果まで歩きましたが、タヾタヾ道中の馬車や汽車の利かない難儀した他には別にかうとした面白いことはございやせんでしたが、私は日本に初め参りましたは丁度幕府の倒れる際でありました。世の中が騒々しい時でありやした。士人(さむらひ)が大小をさして陣笠を被って威張って歩く時分でありやした。 ソノ頃に外國人が非常に武家に惡(にく)まれた様でありました。一寸散歩に出ましても士人に出合ひますと、先づ向ふで刀のツカへ手を懸け、刀身を一二寸鯉口を抜いたものでありやす。此方もいつか鮪庖丁で斬(きら)れるか分らず。命懸けのことでありました。尤も用意には懐中鐵砲を懐中にし、ソレを出し懸けて互ひに睨み合って通りすがった様な有様でありやした。
●横濱へ忘物   マダ明治の初りでごだいやしたが、父と共に東京へ参りまして、其際芝の山内(さんない)にゲンコー院といふ寺に居りました。父が新聞を作(こしら)へる所で、右の寺が新聞社でした。午後の三四時頃でもありやしたろうか、父が横濱へ忘れ物をして來た。私を顧みて「オヽハレー(ブラックの幼名)横濱にナニナニを忘れて参ったが、急で取りに往って呉れ」と申します。今の様に汽車があるンではない。 で父は「明日(みょうにち)早朝持って來るやうに、馬車よりか乗馬で行た方がよかろう、又馬丁(べっとう)に共をさせると早く走れまいから共なしで行った方がよかろう」と言はれまして身支度をする。馬丁は馬を支度する内に自分は夕飯を喫(したゝ)めて夕暮前に出懸けやした。
●馬蹄の跫音(をと)   赤羽から札の辻、高輪通りて品川……人家を放れて鈴ヶ森の手前の淋しい處へ出ると、背後からバタバタバタバタと馬蹄の跫音(あしおと)。振返(ふりかへり)て見ますると日本馬具で大小をさした士人が馬を飛して來るのでごだいやす。サア氣味が惡くなりましたねェ。淋しい所でズバリと斬られはしないかと思ひ馬にステッキを打(い)れて飛出しますと、先方も仝(をな)じく馬に鞭をあてゝ早めて参りまする。日暮れて人の一人通るではない、一條(ひとすぢ)の街道筋、音に聞ゆる鈴ヶ森でありやすからたまりやせん。 大森の人家のある處まで駈らかしてホット一呼吸、周圍(あたり)を見ますに人家は戸を閉めてある、あるけれど先づなんとなく安心して馬を停め、ハテ嶮呑(けんのん)だった、マサカ人家のある處で斬りもしまい。嶮呑なものは先(やり)すごすに如(し)くなしと、馬上から降りて道端に出たくもありませんし小便を致しましてどうなるかと見ますと、向ふの方でも馬を留めて小便でもしてゐるらしい。
●船頭へ一分   士人先生先へ行くどころか、此方(こっち)の出馬を待ってゐる。コイツはいかん、此先淋しい所はある。生麥なんて異人殺しの本場ががあると、心中穏かなりやせん。仕方がない此方が早いか、向ふが早いか、競馬だ。心の紐を締めまして馬にヒラリ乗るや否や飛出した。川崎へ参りますと橋がない。船で越すのですから船へ乗込漕出させると、後からの士人「オーイオーイ」と船頭を呼止める。止められては大變、コイデ船遅らせればモー安心と思って船頭に一分金を與(やっ)て「早く出せ早く出せ」と漕出させた。 マヅ是で安心したと思ったのも束の間で、忽ち後背(あと)から逐駈(をっか)けて來やした。又々競馬で、逐附(をっつか)れたらバサリ斬れると思ひますから壽命が何才まであっても忘れない恐さでした。漸(や)う漸う神奈川まで來て横濱へ入りますと道の曲ってゐる處で、別々になり放れましたが、餘りの恐さでコレコレシカジカと人々に語りますとイヤモー大笑ひ。 ソレは高輪の大木戸を通る際に齢(とし)のゆかない外國人一人で横濱へ行く様子、番所の役人が心配して保護をしてくれたので、ソイで一人士人を附けて下さいましたといふ事でしたが、實に念の入った親切です。若しもソレなれば一寸一言被仰(おっしゃ)って下さればコハイ思ひは致さず、二人で話しながら行ったでございましょうが、思違ひといふものは恐いものでごだいやす。三十四年前の事で、今日の日本を見ますと、宛(まる)で夢であったかと思ひやす。 (完)


注)句点はなく、一部読点を句点に変更しています。
注)ことの合字は仮名に変更しています。
注)ごだいやす などの表記は原文のままです。
注)太字部分は実際には二行ににまたがる大活字になっています。


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