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瀬下耽 作品

Since: 2022.04.16
Last Update: 2023.07.02
略年譜 - 探偵小説 - 随筆 - 著書

      瀬下耽(せじもたん)略年譜

    1904.02.24(明治37年)  新潟県柏崎にて生まれる。本名は瀬下綱良
    19xx.xx.  慶応義塾大学予科仏文科入学、のち法学部卒業
    1927.08.  「綱」が懸賞二等当選、新青年に掲載される
    1927.10.  「柘榴病」を新青年に発表
    19xx.(戦前)  写真協会勤務
    19xx.(戦後)  帝国石油勤務
    1976.01.  「やさしい風」を幻影城に発表
    1989.09.05(平成元年)  死去

    筆名は、瀬下耽、秘名生

      (国DC※)は国立国会図書館デジタルコレクション個人送信(ログイン必要)で公開されています(今後非公開になる可能性もあります)



      探偵小説

  1. 「綱」
    ( 新青年 1927.08. )
    幻影城 1975.08.
    『「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10』ミステリー文学資料館編 光文社文庫(み-19-09) 2002.02.20
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     老人達の集まる倶楽部での元判事の話。日本アルプスS峰登山、老人と若い妻と従弟と案内人熊吉の一行がいた。懸崖で熊吉、従弟、妻、老人の順に綱を頼りに登っていると老人が足場を外し落ちた。綱には切れ込みがあった。やがて死体が見つかり……。
     意外な真相の話ではあるが十分納得できる。登山描写のサスペンスも良い。最後の真相判明部分は少し無理があると思う。
  2. 「柘榴病」 (「石榴病」)
    ( 新青年 1927.10. )
    『創作探偵小説選集 一九二七年版』探偵趣味の会編 春陽堂書店 1928.01.01/復刻版 1994.04.10 (国DC※)
    ( 探偵実話増刊 1952.09. )
    宝石 1956.10.
    『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 立風書房 1969.12.25/新装版 1975.01.xx/新々装版 1991.08.01
    ( 『現代怪奇小説集1』中島河太郎編、紀田順一郎編 立風書房 1974.09.10 )
    別冊いんなあとりぷ『怪奇・幻想小説の世界』 1976.04.
    『現代怪奇小説集(上)』中島河太郎編、紀田順一郎編 立風書房 1977.04.15/1981.12.
    『ひとりで夜読むな 新青年傑作集4怪奇編』中島河太郎編 角川文庫(緑434-04) 1977.07.20
    ( 『現代怪奇小説集』中島河太郎編、紀田順一郎編 立風書房 1988.07.10 )
    ( 『恐怖小説コレクション1 魔』 新芸術社 1989.09.xx )
    『爬虫館事件 新青年傑作選』 角川ホラー文庫(H800-06) 1998.08.10
    ( 『ひとりで夜読むな 新青年傑作選怪奇編』中島河太郎編 角川ホラー文庫(H800-01) 2001.01.10 )
    ( 『江戸川乱歩と13人の新青年 文学派編』ミステリー文学資料館編 光文社文庫(み-19-30) 2008.05.20 )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     和蘭丸が水の欠乏で島に上陸したが、伝染性の柘榴病で生存者はいなかった。医師フェデロの日記。フェデロ夫妻は海賊と思われる島に漂着し医者として住む。柘榴病が発生し、島民は財宝を持ってくるようになる。絶滅させるではなく財宝を受け取るようになったフェデロも発症し……。
     実話読物のような創作か。受け止め方は読者次第。個人的には怪談や恐怖小説という感じはしない。懺悔なので死して後もではないと思うが。
  3. 「裸足の子」
    ( 新青年 1928.01. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     医者の私は散歩中に監獄の塀を乗り越える子供を見た。後をつけていくと夜逃げ同様に引っ越していった家に入ろうとしていた。私は子供が持っていた紙片への返信を書いて渡す。翌々日、子供は……。
     哀れな結末となる話。何に対する殉教者であろうか。
  4. 「犯罪倶楽部入会テスト」
    ( 探偵趣味 1928.02. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     とある倶楽部で私はテストを受けた。四つの釦で一つだけ脱出できる扉が開くもの。暗号。鋸の通過……。
     小ネタ集。釦押しは少し予想外。
  5. 「古風な洋服」
    ( 新青年 1928.05. )
    『創作探偵小説選集 一九二八年版』探偵趣味の会編 春陽堂書店 1929.02.13/復刻版 1994.04.10
    『あやつり裁判 幻の探偵小説コレクション』鮎川哲也編 晶文社 1988.03.25
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     私は妻岸子と散歩に出かけ、妻を追う途中に慌てていた同僚の北と突き当たりそうになった。翌週末、彼を訪れると古風な洋服を着て出かけるところだった。翌週の休日、彼は古風な洋服を着て私を連れて行った先は……。
     良い話でもあり、また最後は男の哀れさを感じさせる作品。服装の理由は面白い着想。佳作。
  6. 「四本の足を持った男」 秘名生[青砥甚之助]
    ( 新青年 1928.08. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     銀行の朝、宿直した出納部係の森が出てこないので里見が見に行くと小屋で絞殺死体となっているのが発見された。雨のあとで里見の部屋の窓からと老会計士宗方の部屋の窓から小屋への足跡があり、小屋から便所へも足跡があった。誤魔化された帳簿、手袋、蝋燭。老探偵青砥甚之助が調査を開始し……。
     トリック重視の探偵小説。少し詳しく調べれば直にわかりそうで無理もある。帳簿の誤魔化し方や構成や展開のしかたなどは見事。メイントリックと後出しに近い記述以外はなかなか良い作品。
  7. 「めくらめあき」
    ( 探偵趣味 1928.09. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     按摩の猿市は杖を持たずに帰ると女房に朝には黒装束が二人斬られている騒ぎがあるだろうと漏らす。吟味所に呼ばれた猿市は語る。火縄の匂いと森村七郎左衛門を殺す会話を聞き、七郎左衛門を救う方法を考えて……。
     賭け部分もあるが一計を案じて対応する方法と設定は上手くまとまっている。
  8. 「海底」
    ( 新青年 1928.10. )
    『新青年ミステリ倶楽部 幻の探偵小説』中島河太郎編 青樹社ビッグブックス 1986.07.10
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
    『竹中英太郎(一)怪奇』末永昭二編 皓星社・挿絵叢書1 2016.06.01
     佐渡島、懸崖の鼻にいると男は石塊を海に投げた。石は海底で吸い込まれていくように動いていく。男は語る。漁師源吉は酔って女房のおさくを追い、おさくは海に飛び込んだ。人気者の銘酒屋のお八重は店におらず、他の男と競っていた従弟の松造は喧嘩の相手にならなかった。源吉と松造が漁に出て崖下にくると女の死体が……。
     酩酊状態、死体の発見場面などやや幻想的な作品。最後は夢から醒めた感じになる。佳作。
  9. 「R島事件」 [青砥老人]
    ( 新青年 1929.04. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     私はR島の望翠館に泊っていた。川から上がったおみよの死体を調べていた老人青砥。祥天山の言い伝えと張り紙。途中の中橋と巌を迂回する二股道。大学生草上の手袋と指輪。彼はのろ松に犬の散歩を頼み逃げられていた。お角婆さんの家での出来事。おみよの思い人政吉……。
     状況や出来事から絞っていく探偵小説。偶然が多いのは難だが、必然も意味あるミスディレクションも多く無駄を感じさせない。場面選択が上手い。警察の活動がないのは島だからか。
  10. 「仮面の決闘」
    ( 新青年 1929.06. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     南方の虎、辺境伯カルテロは一人息子の帰還を迎えようとしていた。妹が辱められ死んだという男からの決闘状。仮面をつけての決闘……。
     簡単に予測できる展開だが、時系列と提案者に納得がいかない。
  11. 「呪はれた悪戯」
    ( 新青年 1929.09. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     私と兄と嫂お貞さんと嫂の従兄円城寺は級友で兄と同じ会社に勤務している桜田の家に泊っていた。三重の塔の蒼雲閣の三階で嫂は白紙の封筒を持ち、咽喉を裂かれて死んだ。私は一階にいて誰も三階にはいなかった。舟で釣りをしていた円城寺も同じ様に死んだ。周りには舟などなかった。散歩中だった兄。駅から戻った桜田……。
     一見不可能犯罪、やはり都合よすぎるトリックで伏線はほぼない。最後はどのようになったのやら。
  12. 「女は恋を食べて生きてゐる」
    ( 中央公論 1930.07. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     榛新一郎は椿島の美登璃荘へ毛谷伍助に囲われたみとりとの逢瀬で通っていた。花売り娘だったきぬたとの同棲、みとりとは別れ話をするが泣いて罵られる。予告の手紙と送られてくるチョコレートに薔薇の花束、そして白葡萄酒。最後の面談の手紙……。
     サスペンス小説。最後はホラーといえるかもしれない。文芸的要素を入れようとしたのかどうかは不明。
  13. 「欺く灯」
    ( 新青年 1930.10. )
    ( 小説推理増刊 1974.08. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     K漁村、母屋で夫婦喧嘩でもしているようだった。主人信三郎は離れを借りていた私に語る。おみよが岬の常夜灯を見えなくするのを合図に信三郎と会っていた。おみよの従兄の重公はも彼女を狙っていた。重公は民さんの潰れた足をもぎ鱶の餌にした事があった。海が荒れていた夜、重公たちの船は転覆し……。
     異常心理の話。消灯の違いは良いとしても、今ひとつ最初と最後が結びつかない。血によってという事だろうか。
  14. 「海の嘆」
    ( 新青年 1931.07. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     白草一郎と次郎の兄弟は潜水夫だった。一郎に叔父から青江が家出しグラナダ丸に乗ったと電報がきた。赤城青江は一郎の許婚だった。グラナダ丸沈没の報。一郎と次郎はグラナダ丸からの銀塊の引揚げで潜ると……。
     海底の幻想味を帯びた作品。沈没して直ぐの死体であろうか。
  15. 「墜落」
    ( 新青年 1932.03. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     太田洋行曲芸団、投げ縄のジョーヂ・鳥海(蛙)、鳥海が拾い上げてきたブランコ乗りのカナ子、相棒の飛夫、飛夫を弟のように愛していた芸人のお富(臼)、カナ子に口説く芸人匹田(顎)。停電中、カナ子と飛夫の綱が切られての墜落死。診察券……。
     作者の推理なのか捜査結果なのか真相は確定されていない。状況証拠からとしては他に考えられなさそうだが。
  16. 「幇助者」
    ( 新青年 1932.04. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     父は震災で片腕になり働けなくなり、出ていった母の写真を見ては呪っていた。子供はふと洋邸に潜り込んだ。病人に頼まれ手文庫を持ってきて欲しいと。瓶の中のものを水に混ぜる。妻と医者が現われ……。
     結末の明示はない。子供は天使なのか悪魔なのかという話にもとれる。年月と環境で変わるのだろうか。病人目線で似た所があったのかもしれないとの邪推も可能か。
  17. 「罌粟島の悲劇」
    ( 新青年 1933.01. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     罌粟島の灯台守滝音吉は浜に打ち上げられた女を見つけた。桐子は音吉、姪のお秋、三人の息子雄一郎、A監獄看守で帰省中の次郎、三郎と過ごすことになった。桐子に言い寄る息子たち。雄一郎をなじるお秋。罌粟子島で次郎が岩で圧殺された。警官の到着、そして桐子が……。
     孤島の事件。トリックというほどでもないし偶然の解決も気になるが、納得できる動機などまとまった出来の作品。手の火傷は影響がなかったのだろうか。
  18. 「手袋」
    ( 新探偵小説 1947.06. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     山峡の一軒家の主人はシェパードを飼っていて手袋の匂いで訓練していた。親友北に会社を乗っ取られ、女を奪われていた。訪れた北は主人の息子一郎と話をする。一郎は北の娘としこと関係していた。北が帰ると主人は犬の留金を引き抜き……。
     意外な結末をむかえる作品。伏線もあり記述も考えられている。
  19. 「空に浮ぶ顔」
    ( 物語増刊『新選探偵小説十二人集』 中部日本新聞社 1947.09.20 )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     画家の私の家の隣に母娘が越して来た。見知った少女のようだが思い出せない。カーテン、花柘榴、ポピー、北側以外閉ざされた窓、カンナ、ピエロ……。
     少女の因縁話。献身的な許婚はどのような人物だろうか。朝夕は大丈夫なのだろうか。題名の意味も今ひとつわからない。
  20. 「シュプールは語る」
    ( 探偵趣味 1949.01. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     Eスキー場で柳は六年前に別れた加納美樹子と会い殺してしまう。彼はジャンプして飛び越える裂け目に転落死したように偽装する。医学生の美樹子の弟加納幹雄は現場で……。
     倒叙。題名通りの内容。雪が降れば、風が吹いていればまた変わった事になったのだろう。
  21. 「覗く眼」
    ( 探偵実話 1953.01. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     安西四郎のアパート、隣の老教師との間は襖であった。針で刺すように穴を開けている。通いの恋人マリ子との事を覗いていたに違いない。四郎は女物の帽子を買い、マリ子を迎える。ふざけあいながら……。
     眼には眼をの物語。ふざけあいや帽子と準備運動のせいか微笑ましく感じてしまう。
  22. 「やさしい風」
    幻影城 1976.01.
    『甦る「幻影城」2 探偵小説誌 幻の名作』 角川書店カドカワ・エンタテインメント 1987.11.25
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     彼は作家で魔美と赤ん坊とで雑貨屋の二階を借りて住んでいた。認知を迫る魔美。急ぐことに疑心暗鬼となる彼。父を知るのは母のみ。魔美は赤ん坊を残して出ていく。這って食べ物を得るために机に上る赤ん坊……。
     心理的移り変わりが良く出ている作品。淡々とした文章より効果をあげているのだろうか。上手い。
  23. その他、予科時代に純文学同人誌『水〓(くいな)笛』『錬金道士』を刊行、非探偵小説を掲載。



      随筆・評論など

  1. 「(マイクロフォン)」
    ( 新青年 1928.02. )
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     「見得ぬ顔」小酒井不木、「凍るアラベスク」妹尾韶夫、「原稿料の袋」甲賀三郎、「イワンとイワンの兄」渡辺温、「七つの閨」水谷準、「星史郎懺悔録」大下宇陀児、「あ、てる、てえる、ふいるむ」横溝正史(江戸川乱歩名義)
  2. 「(マイクロフォン)(八月号増刊「陰獣」を中心として)」
    ( 新青年 1928.10. )
    ( 抜粋『江戸川乱歩全集 第一巻』 平凡社 1931.06.10 )(国DC※)
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
     「陰獣」は大谷崎の匂い。甲賀三郎と対称的。ねばっこい文体など眩惑させられる。探偵小説素地の露骨でないものほど好きになれる。

  3. 「一組のフィーチュア写真の裏に 組写真の撮影企画」瀬下綱良
    ( 報道写真 1942.10. )



      著書

  1. 『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
    「綱」/「柘榴病」/「裸足の子」/「犯罪倶楽部入会テスト」/「古風な洋服」/「四本の足を持った男」/「めくらめあき」/「海底」/「R島事件」/「仮面の決闘」/「呪はれた悪戯」/「女は恋を食べて生きてゐる」/「欺く灯」/「海の嘆」/「墜落」/「幇助者」/「罌粟島の悲劇」/「手袋」/「シュプールは語る」/「覗く眼」/「やさしい風」/△「(マイクロフォン)」/△「(マイクロフォン)(八月号増刊「陰獣」を中心として)」/△「解題」横井司



      参考文献
  1. 「海恋いの錬金道士・瀬下耽」鮎川哲也
    幻影城 1975.08.
    『幻の探偵作家を求めて』鮎川哲也 晶文社 1985.10.10
    『幻の探偵作家を求めて 完全版(上)』鮎川哲也、日下三蔵編 論創社 2019.06.20
  2. 「解題」横井司
    『瀬下耽探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書42 2009.11.30
  3. ほか



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