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若松秀雄 作品

Since: 2023.01.15
Last Update: 2024.04.14
略年譜 - 探偵小説 - 随筆

      若松秀雄(わかまつひでお)略年譜

    1913.頃(大正2年頃)  正確な生年および出身地不明(多分名古屋市港区)。家は麦稈漂白らしい。戦後しばらくの住所も名古屋市港区。
    19xx.xx.  愛知五中(熱田中学)卒または五中の井上良夫の弟の友人
    1934.02.  「金曜日殺人事件」がぷろふいる に掲載
    1934.07.  名古屋探偵倶楽部(ぷろふいるにて呼びかけ)が結成され第一回会合開催
    1940.xx.  応召
    1947.04.  服部元正、福田祥男と新探偵小説社を設立、新探偵小説を発行
    1947.07.  新探偵小説社同人が幹事となり第一回名古屋土曜会を開催
    1948.01.  東海探偵作家クラブ発足、会長は岡戸武平、幹事長に福田祥男
    1949.08.  「情熱の犯罪」を別冊物語に掲載
    1951.09.〜  CBCラジオのスリラー劇場、CBC推理クラブの原作担当
    195x.xx.  CBC勤務
    1967.xx.  以降不明(『民間放送全職員人名簿 昭和42年度版』に名前あり)

    筆名は、若松秀雄、河田一(挿絵)



      探偵小説

  1. 「金曜日殺人事件」 [会津警部]
    ( ぷろふいる 1934.02. )
    ( 『新人傑作探偵小説選集 昭和十年版』 ぷろふいる社 1935.08.09 )
     金曜日の夜、Mアパートで鬼怒川洋一が密室状態の中で棚にあった青銅の花瓶で頭を打たれて死んでいた。晃二、耽三、絹子の弟妹が同じアパートの別部屋にいた。隣は画家の由利信雄。発見者は約束時間に訪れたが部屋におらず三十分後に訪れた藤堂将介。捜査は会津警部と平戸刑事。翌金曜日、密室ではないが同じように晃二が死んでいた。翌金曜日……。
     本格推理(パズル)小説。密室とはいえなかったりトリック的に新味がなかったり心理的なものがなかったり、純粋な犯人当てに近い。手懸りや他の可能性の排除もそれなりにある力作。毎金曜日である理由は二通り想像できるが不明のまま。
  2. 「伊奈邸殺人事件」 [会津警部]
    ( ぷろふいる 1934.08. )
     伊奈邸で銃声がした。巡回中の山岡巡査は伊奈進三が春子夫人の部屋で、銃弾が入っていないと思っていた拳銃で城木正平に手を傷つけられたという。四日後、銃声を聞いた山岡巡査は秘書秋村恭助と進三の死体を発見、窓から逃げる男を見ていた。会津警部と平戸刑事が駈けつける。夫人は出かけていたはずだというが駅で古島次郎と会い、後で邸でまた会う事を約して邸へ戻ったらしい。コンパクト、床の血痕、窓の指紋、弾痕、ガラス片……。
     本格推理(パズル)小説。条件設定は上手いが提示は断定に過ぎる点もある。新味はないが手懸りなどそれなりに散りばめられている。
  3. 「墓穴を掘った男」 [会津警部]
    ( ぷろふいる 1935.04. )
     土岐重四郎は会津警部と平戸刑事にに心当たりのない脅迫状について相談する。四日後、上野Mアパートで土岐が殺されたと通報があり駈けつけて発見者葦澤成六らに聞き取りしていると土岐が帰宅、死体は共同経営者秋山清だった。秋山と同居の従弟藤浪淳三は土岐からの電話で出かけたという。土岐は秋山から電話で呼び出されていた。マスクの男、眼帯、附髭、手形、電話、筆跡、銃声……。
     本格推理(パズル)風ではあるが、どこに抜かりがあったかというような感じ。最後の出来事はご都合主義的だとしてもよくわからない。
  4. 「完全証拠」
    ( 新探偵小説 1947.04. )
     沼田公平は岡辺賢造法律事務所と看板のある家へ入った。約束してあったが真暗で応答もない。部屋に入ると賢造は殴殺されていた。鍵をかけられ窓からも出られない。公平は花木弁護士に電話をかける。賢造の弟俊作の帰宅とほぼ同時に着いた花木弁護士は二人で扉を壊し、その隙に光平は逃げ出すことができた。光平は病気で下宿にいたというアリバイを作って賢造を殺害するつもりだった。賢造も公平を殺す動機があった。花木弁護士は俊作を疑ってみるが駅員の証言があった。公平が犯人としても鍵の問題が残る……。
     本格推理(パズル)小説風なところもあるが確定できるわけではない。アリバイトリックは少々怪しいが鍵の意図と真相の意外性は伏線記述もあり考えられている。
  5. 「運命の復讐」
    ( パレス2号 1947.07. )
     私が望月検事を訪れると復讐奇談ともゆうべき遺書を読まさせてもらった。父と二人で生活していたが父はつらくあたり学校にも行かせてもらえず小僧として売られる。金を盗って逃げ出し、盗みを繰り返すようになった。ふと、父の元に帰ると父は二十年前に強盗にあい母を奪われたという。中岡への殺害を頼まれる。父を傷つけた短刀で殺害し身許がわからないように陸橋から突き落とす。父に話すと驚くべき事を言われる。さらに……。
     どんでん返しの効いた作品。伏線はほとんどなく唐突ではあるが。
  6. 「暗黒の殺人」
    ( 物語増刊『新選探偵小説十二人集』 中部日本新聞社 1947.09.20 )
  7. 「裸体画の秘密」
    ( パレス5号 1947.12. )
     黒木浩のアトリエで彼が隣室の書斎にいる間にモデルの島村愛子が裸のままで絞殺されていた。離れに住んでいる元将校の内山隆一は平川警部に黒木が犯人ではないかと告げる。隆一に愛子から電話で妻美津江と黒木が関係していると告げられる。モデルにはなったが着衣だと黒木から絵を見せてもらっていた。再び愛子からなじるような電話があった。隆一に黒木を殺させようとしていたという。平川警部は絵を見て……。
     使い古されたトリックの変形といえなくもない。動機にも少しひねりがある。ただ事件そのものと発覚は単純。
  8. 「情婦のうらみ(迷宮入り殺人事件を解く・探偵作家の推理)」
    ( 物語 1948.01. )※14
     実際の事件を想像により小説風に記した作品。信子(他者では敏子)は尾頭橋の電停で友人と別れ宿直の歌手賀川に会うために劇場に戻る。与太者の木谷らに会う。その後賀川と会う。劇場を出た信子は殺される前に……。
     八熊事件(八熊町娘殺し事件)は昭和22年2月に名古屋で発生した殺人事件。内容は調べていません。同時に小説ではなく見解として、「出来心の毒牙(新聞記者の推理)」西原健男、「周期的の変態者(検事の推理9」A検事が掲載されている。内容的には当日の経緯を想像により記したもので特に目新しい視点はない。
  9. 「浴槽の恐怖」
    ( 仮面 1948.03. )
     玉枝が浴室で死んでいた。いつも良人達夫の後だがその時に限って帰宅前に入浴していた。警部は心臓麻痺と思われるという警察医に解剖を依頼する。達夫は玉枝の妹貴美子と結婚、三週間ほどたった頃、貴美子の入浴の後に暗い表情をするようになった。浴槽の花嫁。貴美子は従兄古川正司に相談する。達夫より先に入浴し反応をみることになった。翌朝龍夫は……。
     浴槽の花嫁をひねった作品。検死の進歩ということもあるのだろう。
  10. 「惨劇を告げる電話」
    ( 新探偵小説 1948.07. )
     宇津木刑事は港本町の喫茶店ミナミの波野清子から磯田龍平が殺されたらしいと電話で通報を受けた。電話越しに銃声がしたという。従弟岩間呉郎と共同経営している六番町の木工場に隣接した家に後妻貞子と呉郎とで住んでいた。呉郎は酒場の小鈴へ、貞子は近藤医師のところへ行っていた。宇津木刑事が調べると電話の場所と時刻が違っていた。別れるという言葉、利益配分、拳銃の持主、子を宿した清子、雨、そして再び電話越しの銃声が……。
     設定は面白くはあるが真相は一つの可能性であり真相に至る経緯も想像でしかない。ホームズ譚の記述もあり発想元であったと思われる。
  11. 「殺人者の条件」
    ( 物語 1948.07. )※13
     神谷俊吉は山鳥弘に出会った。俊吉は山鳥の妻美津子に同情していた。山鳥が情婦と共にいなくなると、美津子と夫婦同然に暮らしていた。山鳥は離婚しても良いという。情婦に逃げられ、一人で病気で淋しいという。俊吉は夕食の招待に応じて山鳥の家を訪れる。夕食の用意はされていなかった。女中が帰ると山鳥は拳銃を……。
     安易で目新しくはないがそれなりにまとまっている。客の夕食が一皿のカレーライスで粗末というのが当時として妥当なのかが妙に気になる。具がなく煮込む必要のないほぼ汁だけなのか、一人分から二人分に増量したのだろうか。
  12. 「刺の女」
    ( 妖奇 1948.08. )
     漁色癖のある木戸氏はダンサーの珠美との情事。左足に繃帯を巻いているがそこには蛇の刺青が。木戸氏に囲われている久保田芳枝は木戸氏と珠美との事を手紙で知る。芳枝は珠美に復讐するという紙片を残して行方不明。その後木戸氏は珠美の寝室で刺青の女の死体を見つける。温泉町のカフェーで木戸氏は……。
     顔のない死体のバリエーション。刺青と場所以外の特徴もあると思うがトリック自体は伏線描写もあり考えられている。結末も想像ということで納得。※『「妖奇」傑作選』巻末リストでは岩本秀雄になっている
  13. 「闇の中の拳銃」
    ( 物語増刊 1948.08. )
  14. 「老嬢殺人事件」
    ( 小説 1948.09.合併号 )
  15. 「母の怖れ」
    ( パレス8号 1948.06. )
     かねが女手ひとつで育てた静雄は立派に育ったが、近頃ダンサーに夢中になっていると職場上長が忠告してきた。夜、酔った静雄が帰ってきた。手の傷と血痕。翌朝、ダンサー宮本明子殺害事件が新聞に載っているのをかねは読む。洗濯をし、見つけた紙片を燃やす。刑事がきて帰宅時間をかねに聞く。連行される静雄……。
     母の心情を表現したストレートな作品。懐かしいという感じがしてしまう。
  16. 「野菊」
    ( 探偵趣味 1949.01. )
  17. 「主なきボート」
    ( 物語 1949.02. )
     画家の立野健はN市近郊G町は紫水館の前で別れた麗子と夫の山辺に出会う。紫水館の裏手には湖がありボートがあった。立野は脚気で泳げない。山辺はボートを漕げない。麗子が紫水館に泊っている藤村と会っているのを立野を見かけ、脅迫するように麗子にモデルにする。そして湖には主のないボートが浮び山辺の溺死体がみつかる。藤村が逮捕され……。
     パズル的要素もあるが肩透かしされたようでもある。結末自体はなるほどと思わせるものがある。
  18. 「情熱の犯罪」
    ( 別冊物語 1949.08. )
  19. 「探偵苦心談」
    ( 物語 1949.12. )※13
     N市薬局員の白鳥五郎は温泉ホテルを引き上げる用意をしていた。向いの部屋で謎の死をとげた緑川夫人の事件も自殺だと片がついた。私立探偵黄島金一が来て白鳥に探偵苦心談を語る。事件の前夜に白鳥と夫人は白帆亭へ出かけ、酔った白鳥が歌ったりしながら夫人の助けでホテルに戻ってきたのを車の運転手や女中が見ていた。夫人は翌昼に鍵がかかった部屋で青酸カリで死んでいた。鍵は服の上にあった。黄島探偵は白鳥に話続ける……。
     既存の密室トリックなどの組み合わせとさらにひねった作品。最後は後出しであるが。二人の会話場面のみで構成されていて良い感じ。惜しむらくは判別不能文字が多かったこと。
  20. 「嫉妬(コント)」
    ( 婦人ウィークリー 1950.06.19 )※13
     貴方ちっとも妬かないんですもの。俺にはできないんだ、理由も時間もない……。
     確かに良く知っている、と納得。
  21. 「暗い夜」
    ( 読切小説集 ((名古屋)テラス社) 1950.08. )
     大学入試に失敗して蝋燭の光で勉強していた白鳥公太郎が不可解の死を遂げた。白鳥家には戦死した兄の嫁と復員したばかりの従兄岡崎健三、女中ののぶが住んでいた。公太郎の部屋での罵るような声、秘密が洩れる事を恐れて殺されるかもしれないとの言葉。翌日、密室の中で死んでいた。金に困っていた綾子の兄の下田圭七、向いの離れに住む脚本家の田島、公太郎の家庭教師の雨宮みさ子。見つかった恋文。岡崎は殺害方法に気付き……。
     密室状況など途中までは面白いが結末は腰砕け。殺害方法はある程度考えられているので、自白ではなく特定できる伏線のようなものがないのが残念。
  22. 「悪夢の果て」
    ( 読切小説集 ((名古屋)テラス社) 1951.05. )※13
     大学助教授の田島慎太郎は南川に満理子との写真を見せられた。満理子と南川はぐるだった。金を払うが繰り返される。田島は原版を取り戻そうと南川写真館へ忍び込む。南川は美江に、そして田島は……。
     倒叙に近い。赤い光の事など面白いところもあって悪くはない。
  23. 「楠田家の悲劇」
    ( 読切小説集 ((名古屋)テラス社) 1951.07. )※13
    ( 艶笑読物 1954.xx. )※8,9による
     私、藤本は友人生島静夫の紹介でG県山奥の楠田家で夏休みを過ごそうとした。彼の従兄楠田了介と妻珠子と了介の妹喜久枝、召使いの婆やの息子尾形敬太が暮らし、喜久枝の許婚者城山健三が来ていた。三年前の生島の運転する車での事故で了介は病床に、喜久枝は松葉杖をついていた。私が了介の頼みで生島を呼びに行って戻ったとき、了介と喜久枝は銃殺、城山と珠子は毒殺されていた……。
     状況と動機から真相解明を試みる検討部分は面白い。結末は決定的な証拠もなく納得し難いところもあるが。
  24. 「夢去りぬ」
    ( 中日ウィークリー 1951.10.24 )※13
     大洋丸の水夫長木越新一はキャバレーミナトのダンサーの真弓に与太者の憲次と手を切らないかと問い詰める。とっくに手を切ったと答える。御曹司の綱島は上客だという。真弓が綱島に憲次は殺されると言った二日後、憲次の溺死体が……。
     皮肉な結果となる話。予言としては根拠薄弱な気がする。
  25. 「悲劇の結末」
    ( 中日ウィークリー 1951.11.28 )※13
     紅茶の中へ眠り薬を入れて、と男の情婦は言う。男には病身の妻がいた。男は妻に紅茶を飲ませ、眠ったところを小舟で湖の中へ……。
     皮肉な結果となる話。短かすぎるためか安直な感じがする。
  26. 「謀殺者」
    ( 名古屋タイムズ 1952.01.22〜26 )※13
     初子は夫から逃れるため山奥の温泉旅館に滞在していた。津田とその妻春江が来た。何か訳がありそうだ。春江は良人に殺されるかもしれないという。初子はあとをつける。崖での出来事、そして初子は……。
     結末はホラーといえるかもしれない。
  27. 「赤信号」
    ( 名古屋タイムズ 1952.02.10,11 )※13
     住み込み女中と忍び込み窃盗のペア般若の恭二とみきは成田家夫婦が温泉に行くというので打ち合わせをしていた。行くと決まればタオルをかけておく。成田夫人は男友達に成田だけ行かせて夫人は残るという。成田も行かないときは赤いタオルをかけておく。夜……。
     どのようにでも展開できる作品。色指定の有無は気になるが。
  28. 「勇敢なる女性」
    ( 名古屋タイムズ 1952.02.17,18 )※13
     安藤家のパーティーにて、安藤氏、勝子夫人、夫人の弟春夫、従弟の山村、友人の吉岡氏、夫人の従妹珠江、夫人の妹美智子が女性の勇敢さについて話している。ドロボーがいきなりピストルをつきつけてきたとしたら。女性たちは男性たちが狂言強盗を企てていると聞いて……。
     コント風作品。オチは簡単に想像できる。
  29. 「浴槽の白ばら」
    ( 中日ウィークリー 1952.02.20 )※13
     古川は加賀に使い込んだ会社の金の処理を提案する。交換条件は娘の圭子との結婚。圭子は広小路の喫茶店でプロポーズを受け、翌土曜日に古川の家へ行って待つことになった。浴室で……。
     都合よくいきすぎ。賭けでも分が悪すぎるような。
  30. 「犯罪工作者」
    ( 名古屋タイムズ 1952.03.05〜10 )※13
     看板が取り替えられる事件が時々起きていた。床屋の為さんはある夜、現場を目撃し追うと線路に女性の轢死体を見つける。男は甲田という学生らしかった。甲田は酒場の小鈴で給仕女のふみ子と話していた。死体は画家吉井達夫の家政婦村岡房枝だとわかる。甲田は為さんに事情を内緒でと話すが吉井に漏らしてしまう。そして、ふみ子の轢死体が……。
     真相ははっきりしない目撃者の話。
  31. 「闇の小道」
    ( 名古屋タイムズ 1952.04.01〜04 )※13
     G県の山奥に来ていた画家の健三はみつ子を知り全裸モデルになってもらっていた。みつ子の夫は乱暴者の兵太だった。健三はみつ子に夫と別れて東京へ行くことを勧める。みつ子は運命だといって断る。夫には隠していたモデルのことが見つかる。明日の晩、滝壺のところで……。
     哀れな女性の話。痕跡を隠すところなど今ひとつわからない。
  32. 「愛情よ永遠に」
    ( 名古屋タイムズ 1952.04.08,09 )※13
     山村は妻みつ子と婆やを残して東京へ働きに行くといって出かけた一時間後には事故で死体となって戻ってきた。みつ子は永遠の愛情として……。
     ありきたりの話。誰が受け取るかによるわけだが。
  33. 「悪運」
    ( 名古屋タイムズ 1952.04.21〜23 )※13
     郷里の母から病気の電報を受取った信吉だったが工場をクビになり帰る金もない。同じくクビになった敬太郎には古道具屋の叔父源三爺さんがいた。信吉は源三爺さんのところへ……。
     皮肉な結果となる話。題名は意味深長。
  34. 「禍根」
    ( 名古屋タイムズ 1952.04.29,30 )※13
     失業中の甲三の妻良子は病気になっていた。タバコ屋の婆さんを脅して金を得ようとしたが失敗し……。
     皮肉な結果となる話ではあるが、相手が相手なので逆に幸運な結果ではないかとも思える。
  35. 「殺人アパート(「犯人当て」懸賞スリラー)」 [望月弁護士]
    ( 名古屋タイムズ 1952.06.04〜14,18 )
     東山公園近くのアパート圓山荘、十三号室の学生山村達夫が隣の十四号室から男女の言い争いの声と扉の音と倒れる音を聞いた。楽士島田源吉が刺殺されていた。向いの十八号室の大岡芳三は裏階段を下りる女の後姿を見たという。望月弁護士は白井警部に扉が開いてから刺したと指摘する。拭われた短刀の指紋と残っていた扉の指紋。自殺した女性、人妻小野里子、ダンサー舟山圭子、恨みをもっていた渡辺健三。大岡と圭子、山村と渡辺。そして第二の事件が……。
     手懸りはわかり易く正解者も多かったもよう。
  36. 「恐怖の一夜」
    ( 名古屋タイムズ 1952.07.12〜14 )※13
     村田検事は強盗殺人犯として男を捕らえたが、最近別の犯人らしい男が逮捕されて心を悩ませていた。と、夜に谷口と名乗る男が殺された兄の復讐だと言って訪問してきた。心当たりはない。男はピストルで脅す。薬を入れた湯呑茶碗と入れていない湯呑茶碗……。
     サスペンスはあるが強引な展開。復讐方法として妥当とは思えない。
  37. 「二つの殺人事件」
    ( 中日ウィークリー 1952.07.02 )※13
     ダンサーの小川きみ子と勤めながら夜間大学に通う竜一郎との姉弟。刑事が来て鶴見京三殺害犯としてきみ子を逮捕する。訪ねたときには既に死んでいたという。会社の下田は弁護士も金次第だという。会社も解雇される。金を貰えば真犯人だと名乗り出るという手紙が届くが金はない。隆一郎は……。
     皮肉な結末となる話。告発というのもアリな気もする。
  38. 「賞金付けて」
    ( 名古屋タイムズ 1952.07.30,31 )
     木村氏は春子夫人の誕生日の為にダイヤを手に入れたが帰宅すると箱ごとなくなっていた。秘書の山川に渡してもおらず宝石商に置き忘れてもいなかった。新聞に懸賞広告を出したところ山川の妻かね子が来て……。。
     ひねりを効かせた小品。人柄をも見込んだのだろうか。
  39. 「清風館事件(犯人当て懸賞スリラー)」 [望月弁護士]
    ( 名古屋タイムズ 1952.08.25〜09.03,08 )
     南知多の海水浴場。派出看護婦の木村とし子と岡田貞子と松島志津江が清風館に宿泊していた。とし子と貞子は志津江に望帆楼に宿泊している宮原啓一を電話で呼び出させ、志津江には睡眠薬を飲ませて盗人に殺害されたように見せかけ驚かせる計画をたてた。とし子と貞子も眠らされ、起きると志津江は殺されていた。涼を求めて来ていた望月弁護士。盗まれた財布と指輪、写真、そして睡眠薬……。
     解決編直前の文でほぼ犯人はわかる。微妙に誤植(?)もあり混乱はするが。
  40. 「帰らぬおんな」
    ( 中日ウィークリー 1952.12.17 )※13
     半田家の運転手の西尾啓助は半田氏が夫人に贈るダイヤの指輪が金庫に入れられ、しかも解錠番号までも知る。外部から盗んだと見せかけ一旦ダイヤを隠す。西尾にはキャバレーの秋子という女がいたが牧山という男になれなれしくもしていた。一ヶ月後、西尾は隠し場所から回収しようとするが刑事の尾行に気付き秋子に……。
     結末部のタイミングは神業的。不審な行動をしたと見られたのだろうか。
  41. 「幽霊の殺人」
    ( 名古屋タイムズ 1952.12.22〜29 )※13
     災厄がくると易者に言われた信子。恋人の野上は裏切ったら死んで霊魂になって憑りつくという。会社の金を使い込んだとして馘首された野上。信子の為にしたというが信子は愛想をつかしていた。西島と付き合うようになり、野上の遺書とも脅迫状ともとれる手紙を受取る。堀川へ飛び込み自殺した野上。信子は公園で、そしてさらに……。
     話自体は使い古された内容。当時としては男女の関係が逆で目新しかったかもしれないが。
  42. 「クロの秘密」
    ( 譚海 1953.10. )
  43. なお『戦後推理小説総目録』では結城昌治作品と一行入れ替わっている。
  44. 「名古屋と探偵小説」大塚武夫(関西探偵作家クラブ会報1952.01)によれば中部日本新聞夕刊にコントがあるとの事だが未確認です。


  45. 「弾道(合作)」名古屋探偵倶楽部(参加者不明)
    ( ぷろふいる 1937.03. )
     昭和十一年十一月下旬、医者の私楠見は友人轟検事の療養として妹秋子の嫁ぎ先の菅の琵琶湖畔伊吹山麓の別荘近江荘へ行った。轟と秋子は相思の仲だったが突然秋子は菅と結婚した。菅は誰からも好かれていないような男だった。小間使いの小夜は菅の子を身ごもっていた。菅が自室で銃殺された。銃声で階下へ降りた私は扉の前に小夜がいて、部屋の窓は閉じられただけだった。秋子は眠っていて轟は外出していた。警察は小夜を連行、轟は無実と確信して謎を解こうとする……。
     トリックは既に海外作品にあるとはいえ、設定や構成が意外に良くできた作品。題名には意表をつかれた。名古屋探偵倶楽部作だがアイディアやプロットは複数、中心的な執筆者は若松秀雄だった気がする。



      随筆など

  1. 「五十万円事件座談会」(江戸川乱歩)、岡戸武平、耶止説夫、服部元正、福田照雄、若松秀雄
    ( 夕刊新東海 1947.10.02or11.02 )
     ※『乱歩年譜著作目録集成』(※6)では11.02として記載があるが、『探偵作家クラブ会報5号』(1947.10.15)消息欄では在名古屋作家のみで10.02となっている
  2. 「智能犯をえぐる 江戸川乱歩を囲んで(座談会)」江戸川乱歩、岡戸武平、耶止説夫、若松秀雄、服部元正、福田照雄
    ( 夕刊名古屋タイムズ 1947.11.10 )
     ほぼ江戸川乱歩と岡戸武平の対談で一発言のみ記載。
  3. 「乱歩氏を囲んで(座談会)」江戸川乱歩、西田政治、山本禾太郎、岡戸武平、服部元正、福田照雄、若松秀雄、ほか
    ( 神港夕刊 1947.11.15 )
  4. 「視覚錯誤と犯罪」
    ( 夕刊新東海 1948.04.13 )
     視覚錯誤の例。変装。目、声、歩き方。



      参考文献

  1. 「日本探偵小説総目録」中島河太郎
    『探偵小説傑作選1950年版』日本探偵作家編 岩谷書店 1950.11.20
  2. 『戦後推理小説総目録 推理小説研究12号』中島河太郎編
    『戦後推理小説総目録 推理小説研究12号』 日本推理作家協会 1975.05.30
  3. 「「ぷろふいる」所載主要作品総目録」中島河太郎
    『日本推理小説史(3)』 東京創元社 1996.12.20
  4. 「総目次」「作者別作品リスト」山前譲
    『「X」傑作選』ミステリー文学資料館編 光文社文庫(み-19-13) 2002.12.20
    『「妖奇」傑作選』ミステリー文学資料館編 光文社文庫(み-19-14) 2003.01.20
  5. 「名古屋(昭和22年度)」ほか
    『探偵小説四十年3』江戸川乱歩 ほか 講談社・江戸川乱歩推理文庫55 ほか 1988.03.08 ほか
  6. 「江戸川乱歩作品と著書年度別目録」
    『乱歩年譜著作目録集成』 講談社・江戸川乱歩推理文庫65 1989.05.08
  7. 「江戸川乱歩の本格探偵小説への情熱をかき立てた評論家・井上良夫」山前譲
    『探偵小説のプロフィル』井上良夫 国書刊行会・探偵クラブ 1994.07.20
  8. 「18「新探偵小説」の三人「暗黒の殺人」」
    『探偵作家追跡』若狭邦男 日本古書通信社 2007.08.15
  9. 「91新探偵小説の三人」
    『探偵作家発見100』若狭邦男 日本古書通信社 2013.02.20
  10. 「消息欄」「国内ニュース欄」「第一回「名古屋土曜会」記録」「関西旅行日誌(江戸川乱歩)」ほか
    探偵作家フラブ会報(2号〜10号) 1947.07.〜1948.03./柏書房復刻版
  11. 「名古屋探偵小説史」福田祥男
    裸形 1963.04〜1964.11(4回)
  12. Web Site 戸田氏のミステリ書誌の吹きだまりの「昭和20年代の犯人当てラジオドラマ リスト」
  13. 戸田様より、物語、婦人ウィークリー、読切小説集、中日ウィークリー、名古屋タイムズ掲載作品の御教示を頂きました。有難うございます。
  14. 「続・書誌の補遺」黒田明
    新青年趣味23号 2023.05.05
  15. ほか



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