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仁木悦子の部屋
仁木兄妹作品について |
Scince: 1998.09.24
Last Update: 1999.11.22 |
昭和32年・第三回江戸川乱歩賞受賞作品(公募第一回)。執筆は昭和31年で、河出書房の長編推理小説全集最終巻の公募として書かれた。翌年、当選作なしで選外佳作となり、刊行予定であったが、河出書房の倒産により、日の目をみなかった。審査員でもあった乱歩から、乱歩賞へ応募するように勧められて見事に受賞。この年の応募作は九十六篇で、最終候補には、飛鳥高や土屋隆夫がいた。 |
これまで借りていた部屋を追い出されて、箱崎医院に住む事になった仁木雄太郎と音楽大学の師範科在学中の私、仁木悦子の兄妹。安くしてもらう条件は幸子ちゃんにピアノを教える事。引っ越して次の日には箱崎家のおばあさんや入院中だった平坂氏、そして猫のチミまでも行方不明となる事件が起こった。病院から出られたはずはないのだが。夜に平坂氏からのおかしな電話はあったがおばあさんは行方不明のまま。翌日、チミが発見されたのが隣のお寺であった事から兄が防空壕を調べたところ、お寺に通じる抜け穴を発見した。が、抜け穴でおばあさんが殺されていた。そして、兄と私の探偵活動が始まった。隠されていたダイヤ、謎の推理作家、見つかった毒薬、色々な事が明らかになっていくうちに、またも防空壕で看護婦が殺された。「ネコ……ネコが……。」と言い残して。 |
軽やかな文体とユーモラスな人物設定でありながら、その内容は純本格推理小説といえる。構成も、プロローグ、七月四日土曜日から七月九日木曜日、エピローグと時間を追って妹の悦子の見聞を物語っており、それ以外の様子は兄や他の人物の会話で表現されている。何気ない描写が意味を持って浮きあがってくるさまは一級品。(1998.09.24) |
長編第二作で、初の雑誌連載作品。毎月八十枚位の短期連載。秋。 |
十月の夜、林の中の家、近越常夫の家へ来てくれるようにとの兄への伝言電話を受けた私、仁木悦子。電話は叫び声がして間もなく切れた。声に聞き覚えは無かったが、助けを求められたのに見捨ててはおけない。結局、兄妹二人で住所を頼りに駆けつけたところ、タンゴ歌手の内海房子がライオン像で殴殺されていた。夫の内海義彦とその家族、実家の達岡家の人々、そして近越常夫と別居中の妻。それぞれがそれぞれの事情をかかえる中、心臓が悪かった房子の父の死、奇妙な幼児誘拐事件、さらに林の中の家で再び事件が起こる。 |
場面展開も三つの家族とその関係者を回っている為か多く、やや複雑な所がある。連載を意識していたのかもしれない。やはり、犯人を推理するデータは不足なく与えられている。何気ない描写や、幼児誘拐の顛末はさすがに仁木悦子ならではといえると思う。(1998.09.24) |
長編第三作。冬。 |
正月気分がまだ抜けきらない頃、シャボテン談義をしている兄妹のもとへ警視庁の警部補の紹介と言って一人の男、尾永が訪れた。自動車にひかれそうになったり川に突き落とされたりしたという。家族で写真を撮っていた時に、小柄な男が家の外から様子をうかがっていたこともあった。夫人らからも詳しい話を聞くために家へ行こうとして彼は電話をかけると、夫人が死んでいる、と女中。彼とともに仁木兄妹はかけつける。夫人は扼殺されていたのだ。自動車や写真の時の調査。浮かんできた殺意を持っていた人物。そして、また一人・・。 |
トリックは面白いのですが、十分生かしきっていない気も。犯人当てとしてもやや単純。戦争の時の事も書きたかったのかもしれません。が、ラストのシャボテンに関する兄妹の言葉と共に春のように暖かい温室に戻る事で、おとぎ話となっている感じがします。(1998.09.24) |
兄妹最後の長編。 |
リサイタルの切符をさばいていた悦子。途中、旧知の国近絵美子に会った。妹や弟にも勧めるという事でお邪魔する事に。そこで子供がいなくなった。黒いリボンの脅迫状。そして脅迫電話。悦子は兄の手伝いをする約束で引っぱり出す。身代金は国近氏が渡す事になって出かけるのだが、戻ってこなかった。そして国近氏の死体の発見。手懸かりを追っていくうちにたどり着いた麻布の家。そこでまた新たな事件。誘拐犯人、殺人犯人、誘拐未遂犯人、暴行傷害犯人。一体・・。 |
本格としては、確かに出来がいいとは言えない。お得意の伏線が十分でないから。しかしながら、兄妹の活躍と兄妹愛は心打つものがあります。(1998.09.24) |
『猫は知っていた』がまだ乱歩賞に応募されていない時期に雑誌宝石に送った作品で、活字になった最初の推理小説。 |
私がピアノを弾いていた時、一人の男が飛び込んで来た。「殺されてる!」と言いながら。兄は大豆の芽の長さを測るのを止めて一緒に隣家へ駆けつけた。はなれで老人が殺されていたのだ。まだ死んで間もない。雄太郎は花を手懸かりに犯人を罠にかける。 |
植物図鑑を愛用していた著者ならではの小道具、即ち雄太郎の専門的知識が利用されている。それら小道具の使い方や伏線がうまい。オーソドックスなまさにお手本的な犯人当て本格短篇作品といえると思う。コショウ六倍のオムレツの復讐の話や、雄太郎のユーモラスな描写も微笑ましい。(1998.09.24) |
兄に頼んでクリーニング店からコートを受け取って来てもらったのだけれど、私のではなかった。取り替える為に店へ行くと、炊事婦のおばさんが縛られたまま殺され、お金が奪われていた。兄が受け取った時の偽の店員が犯人?それとも・・。 |
アマチュア探偵の宿命か、導入部の巻き込まれ方としては確かに面白い。しかし、偶発的要素が気になって、結果的にはやや不満が残る。しかし、事件そのものに関しての伏線と解明はよく出来た短篇。(1998.09.24) |
「弾丸は飛び出した」という番組を見たくて入り込んだ歯科医院。若いギャングが画面一ぱいに立ちはだかって拳銃を発射したその瞬間、窓の外で白髪の老人が撃たれて倒れた。一緒にいた若者は逃げ出し、若い女性は貧血を起こす。逃げ出した男を探して手懸かりの外国人宅へ行くが、外人もポスターから撃たれたようにして殺されていた。そしてまたも・・。 |
最初から突飛な設定で引きつけられる。そして趣向に準ずる犯行。警察もそのうちに気付きそうな手懸かりではあるが、一歩兄妹の方が早かったという所だろうか。犯人を示す伏線や、女性らしい小道具の使い方はさすがにうまい。(1998.09.24) |
昔のばあやの所へ遊びに行った時、色落ちする赤いたすきで首を絞められた上、川に投げ込まれるという殺人があった。ばあやの息子は手に赤い痕のある一人の男性を逮捕したのだが兄は疑問を持って調べる。 |
村の巡査に花を持たせて最終的に解決するラストは心地よい。また小さい頃の兄妹の様子が垣間見える所は嬉しいファンサービスか。ただ、やや偶然が多すぎる気も。(1998.09.24) |
朝から雨で暗い日曜日、私は兄の朝食の為に商店街へ行く途中、八幡様の境内で老文学博士の死体を見つけた。持っていた手帳に書かれていた「夜 紫式部」とは何を意味しているのだろうか。博士の死因は卒中と診断されるが、止められていたお酒を飲んでいた事や家族関係に不審な点があって釈然としない。兄は私の話から真相に迫る。 |
仁木兄妹としては最後の作品。時代はいわゆる社会派が幅を利かせており、より現実重視の物が求められるようになった為であろうか。作品としては、「紫式部」からの兄妹の連想の差が面白い。真相にせまるまでの伏線や理論はさすがにうまく、本格推理小説の手法を守っているが、最後はやや唐突な感じする。(1998.09.24) |
中学三年の仁木雄太郎と一年の悦子。少年少女向け作品へ。 |
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