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仁木悦子の部屋
仁木兄妹作品について
Scince: 1998.09.24
Last Update: 1999.11.22

横顔 - 作品



    仁木兄妹の横顔
仁木兄妹の生い立ちと事件

 昭和10年頃、兄妹は東京の目黒で偏屈屋の父と料理の得意な陽気な母の間に生まれた。家にはばあやがいて、わりと裕福な家であったようだ。そして近所には峰岸警部が住んでいた。
 幼い頃の兄、雄太郎は、草さえ摘ませておけばおとなしくて世話のやけない子供であった。一方妹の悦子は、男の子みたいに木のぼりが好きで、小学校から高校まで短距離の選手を勤めてきた。

 東京の空襲で一家は信州に疎開し、ばあやは郷里へ帰った。一家はそのまま住みつき、父は土地の高校の数学教師となった。
 昭和30年以前に兄妹は東京へ出てくる。雄太郎は理学部植物学科、悦子は音楽大学の師範科に席を置く。なぜか借りていた部屋を追い出されて、紹介された下宿先が『猫は知っていた』の舞台である箱崎医院であった。

 その後、兄妹はS区K町の水原邸に夫妻の2年間の外遊の間の留守番として住むことになった。水原啓太氏は日本で一、二といわれる貴金属商でシャボテンマニアで、その世話が条件だった。
 兄妹は部屋代が只というだけでなく、留守番料も貰えるという好条件のアルバイトを得たわけだが、さらに、直子夫人は元オペラ歌手で、ピアノも弾きたい放題、黒塗りのルノーも乗りたい放題というおまけまでついていた。ただ、兄妹が引っ越してきてから隣で殺人事件は起こるし、助けを呼ぶ電話がかかってくるというおまけまでもがついていた。

 『猫は知っていた』以外の事件は水原邸に住んでいた頃のものと思われる。
 事件の日付は数年にわたる執筆当時のものを用いているが、兄妹は大学生のままであり、名探偵は年をとらない、といそうである。

 しかし、その後に兄妹は各々結婚し、仁木悦子は浅田悦子として活躍することとなる。


仁木雄太郎の人となり

 身長は一メートル七十四センチ、体重は四五・五キロ。今日では決して背が高いとはいえないが、ゴボウに喩えられる体型。

 血液型はABのN型。透明で暖かな茶色の目、広い形のいい額、よく通った鼻すじ、デリケートな感じの口、あごさえあんなにとがっていなかったら、かなりいい男、とは妹の悦子の印象である。が、メキシコの百姓やブラジルの農民にも喩えられている。

 アルコールは大好きだが弱く、すぐ眠くなってしまう。将棋は推理力同様に強い。
 くせには考える時に手のひらの筋を見つめる事がある。

 そして、「植物をいじり始めたが最後、マリリン・モンローがやって来ようが、人食いトラがやって来ようが、腰をあげはしない。この植物学者をたとえいっ時にもせよ植物から引き離すことのできるものは、ただ一つ−犯罪事件だ」と妹は言う。


仁木悦子の人となり

 身長は一メートル四十五センチ、体重は六○キロ(『猫は知っていた』の記述であり、『黒いリボン』では二センチ高い)。自らカボチャと喩えている。

 ピアノのキーは一オクタオブがやっとという手の指の長さの為にピアノ科には入れなかったが、教えるのは好きなので師範科を選んだ。学校ではクラシックの勉強をしているが、ジャズの大ファンでもある。

 考える前に行動してしまうし、絶えず体を動かしているほうがむいている。
 神経があるのかないのかわからないやつ、とは兄の雄太郎の言葉である。


主要関係者

 砧警部補・・・がっちりした体つきで、色の浅黒い、あごの四角ばった警視庁捜査一課の刑事である。
  『猫は知っていた』「黄色い花」『林の中の家』『刺のある樹』『黒いリボン』に登場する。

 峰岸老警部・・・でっかいあごをもった元警視庁の捜査係長で昔、兄妹の近所に住んでいた。
  このシリーズでは『猫は知っていた』のみに登場する。

 杉本警部・・・警視庁の刑事で「灰色の手袋」「弾丸は飛び出した」「赤い痕」に登場する。



    植物のしらべ (仁木兄妹の作品)
『猫は知っていた』 大日本雄弁会講談社 1957.11.30
 昭和32年・第三回江戸川乱歩賞受賞作品(公募第一回)。執筆は昭和31年で、河出書房の長編推理小説全集最終巻の公募として書かれた。翌年、当選作なしで選外佳作となり、刊行予定であったが、河出書房の倒産により、日の目をみなかった。審査員でもあった乱歩から、乱歩賞へ応募するように勧められて見事に受賞。この年の応募作は九十六篇で、最終候補には、飛鳥高や土屋隆夫がいた。
 これまで借りていた部屋を追い出されて、箱崎医院に住む事になった仁木雄太郎と音楽大学の師範科在学中の私、仁木悦子の兄妹。安くしてもらう条件は幸子ちゃんにピアノを教える事。引っ越して次の日には箱崎家のおばあさんや入院中だった平坂氏、そして猫のチミまでも行方不明となる事件が起こった。病院から出られたはずはないのだが。夜に平坂氏からのおかしな電話はあったがおばあさんは行方不明のまま。翌日、チミが発見されたのが隣のお寺であった事から兄が防空壕を調べたところ、お寺に通じる抜け穴を発見した。が、抜け穴でおばあさんが殺されていた。そして、兄と私の探偵活動が始まった。隠されていたダイヤ、謎の推理作家、見つかった毒薬、色々な事が明らかになっていくうちに、またも防空壕で看護婦が殺された。「ネコ……ネコが……。」と言い残して。
 軽やかな文体とユーモラスな人物設定でありながら、その内容は純本格推理小説といえる。構成も、プロローグ、七月四日土曜日から七月九日木曜日、エピローグと時間を追って妹の悦子の見聞を物語っており、それ以外の様子は兄や他の人物の会話で表現されている。何気ない描写が意味を持って浮きあがってくるさまは一級品。(1998.09.24)

『林の中の家』 宝石 1959.01.〜06.
 長編第二作で、初の雑誌連載作品。毎月八十枚位の短期連載。秋。
 十月の夜、林の中の家、近越常夫の家へ来てくれるようにとの兄への伝言電話を受けた私、仁木悦子。電話は叫び声がして間もなく切れた。声に聞き覚えは無かったが、助けを求められたのに見捨ててはおけない。結局、兄妹二人で住所を頼りに駆けつけたところ、タンゴ歌手の内海房子がライオン像で殴殺されていた。夫の内海義彦とその家族、実家の達岡家の人々、そして近越常夫と別居中の妻。それぞれがそれぞれの事情をかかえる中、心臓が悪かった房子の父の死、奇妙な幼児誘拐事件、さらに林の中の家で再び事件が起こる。
 場面展開も三つの家族とその関係者を回っている為か多く、やや複雑な所がある。連載を意識していたのかもしれない。やはり、犯人を推理するデータは不足なく与えられている。何気ない描写や、幼児誘拐の顛末はさすがに仁木悦子ならではといえると思う。(1998.09.24)

『刺のある樹』 宝石 1961.02.〜07.
 長編第三作。冬。
 正月気分がまだ抜けきらない頃、シャボテン談義をしている兄妹のもとへ警視庁の警部補の紹介と言って一人の男、尾永が訪れた。自動車にひかれそうになったり川に突き落とされたりしたという。家族で写真を撮っていた時に、小柄な男が家の外から様子をうかがっていたこともあった。夫人らからも詳しい話を聞くために家へ行こうとして彼は電話をかけると、夫人が死んでいる、と女中。彼とともに仁木兄妹はかけつける。夫人は扼殺されていたのだ。自動車や写真の時の調査。浮かんできた殺意を持っていた人物。そして、また一人・・。
 トリックは面白いのですが、十分生かしきっていない気も。犯人当てとしてもやや単純。戦争の時の事も書きたかったのかもしれません。が、ラストのシャボテンに関する兄妹の言葉と共に春のように暖かい温室に戻る事で、おとぎ話となっている感じがします。(1998.09.24)

『黒いリボン』 (東都書房・東都ミステリー 1962.06.20)
 兄妹最後の長編。
 リサイタルの切符をさばいていた悦子。途中、旧知の国近絵美子に会った。妹や弟にも勧めるという事でお邪魔する事に。そこで子供がいなくなった。黒いリボンの脅迫状。そして脅迫電話。悦子は兄の手伝いをする約束で引っぱり出す。身代金は国近氏が渡す事になって出かけるのだが、戻ってこなかった。そして国近氏の死体の発見。手懸かりを追っていくうちにたどり着いた麻布の家。そこでまた新たな事件。誘拐犯人、殺人犯人、誘拐未遂犯人、暴行傷害犯人。一体・・。
 本格としては、確かに出来がいいとは言えない。お得意の伏線が十分でないから。しかしながら、兄妹の活躍と兄妹愛は心打つものがあります。(1998.09.24)



「黄色い花」 宝石 1957.07.
 『猫は知っていた』がまだ乱歩賞に応募されていない時期に雑誌宝石に送った作品で、活字になった最初の推理小説。
 私がピアノを弾いていた時、一人の男が飛び込んで来た。「殺されてる!」と言いながら。兄は大豆の芽の長さを測るのを止めて一緒に隣家へ駆けつけた。はなれで老人が殺されていたのだ。まだ死んで間もない。雄太郎は花を手懸かりに犯人を罠にかける。
 植物図鑑を愛用していた著者ならではの小道具、即ち雄太郎の専門的知識が利用されている。それら小道具の使い方や伏線がうまい。オーソドックスなまさにお手本的な犯人当て本格短篇作品といえると思う。コショウ六倍のオムレツの復讐の話や、雄太郎のユーモラスな描写も微笑ましい。(1998.09.24)

「灰色の手袋」 宝石 1958.03.
 兄に頼んでクリーニング店からコートを受け取って来てもらったのだけれど、私のではなかった。取り替える為に店へ行くと、炊事婦のおばさんが縛られたまま殺され、お金が奪われていた。兄が受け取った時の偽の店員が犯人?それとも・・。
 アマチュア探偵の宿命か、導入部の巻き込まれ方としては確かに面白い。しかし、偶発的要素が気になって、結果的にはやや不満が残る。しかし、事件そのものに関しての伏線と解明はよく出来た短篇。(1998.09.24)

「弾丸は飛び出した」 宝石 1958.04.
 「弾丸は飛び出した」という番組を見たくて入り込んだ歯科医院。若いギャングが画面一ぱいに立ちはだかって拳銃を発射したその瞬間、窓の外で白髪の老人が撃たれて倒れた。一緒にいた若者は逃げ出し、若い女性は貧血を起こす。逃げ出した男を探して手懸かりの外国人宅へ行くが、外人もポスターから撃たれたようにして殺されていた。そしてまたも・・。
 最初から突飛な設定で引きつけられる。そして趣向に準ずる犯行。警察もそのうちに気付きそうな手懸かりではあるが、一歩兄妹の方が早かったという所だろうか。犯人を示す伏線や、女性らしい小道具の使い方はさすがにうまい。(1998.09.24)

「赤い痕」 宝石 1958.07.
 昔のばあやの所へ遊びに行った時、色落ちする赤いたすきで首を絞められた上、川に投げ込まれるという殺人があった。ばあやの息子は手に赤い痕のある一人の男性を逮捕したのだが兄は疑問を持って調べる。
 村の巡査に花を持たせて最終的に解決するラストは心地よい。また小さい頃の兄妹の様子が垣間見える所は嬉しいファンサービスか。ただ、やや偶然が多すぎる気も。(1998.09.24)

「暗い日曜日」 宝石 1962.12.
 朝から雨で暗い日曜日、私は兄の朝食の為に商店街へ行く途中、八幡様の境内で老文学博士の死体を見つけた。持っていた手帳に書かれていた「夜 紫式部」とは何を意味しているのだろうか。博士の死因は卒中と診断されるが、止められていたお酒を飲んでいた事や家族関係に不審な点があって釈然としない。兄は私の話から真相に迫る。
 仁木兄妹としては最後の作品。時代はいわゆる社会派が幅を利かせており、より現実重視の物が求められるようになった為であろうか。作品としては、「紫式部」からの兄妹の連想の差が面白い。真相にせまるまでの伏線や理論はさすがにうまく、本格推理小説の手法を守っているが、最後はやや唐突な感じする。(1998.09.24)

「みどりの香炉」 中学生の友一年 1961.12.
 中学三年の仁木雄太郎と一年の悦子。少年少女向け作品へ。


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