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中村美与子 作品

Since: 2016.06.11
Last Update: 2024.10.06
略年譜 - 小説 - 著書 - おまけ
作品小集(別ページ)

      中村美与子(なかむらみよこ)略年譜

    1900.頃(明治33年頃)  (九鬼氏推測)。函館市大森町に生れる[中村美与]
    1927.03.  「獅子の爪」をキングに掲載[中村美代子]
    1935.10.  「火祭」をぷろふいるに掲載[中村美与]
    1936.頃  YDNペンサークルに参加[中村美与]
    1939.07.  「火の女神」を新青年に掲載[中村美与子]
    1956.12.28以前(昭和32年以前)  死去

    筆名は、中村美与(中村美與)、中村美与子(中村美與子)
    中村美代子も同一人物といえそうである

      (論創)はかつて論創社のサイトでインターネット公開されていましたが現在は消滅しているようです
      (夢現)は「中村美与子 作品小集」で公開しています



      中村美代子

  1. 「獅子の爪」
    ( キング 1927.04. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     サーカスの猛獣使い沢井は奇術女優の珊瑚を受取人として保険に入った。それが宣伝となって浅草の興行成績はあがった。七日目、沢井は事故で脚を痛め、最後の獅子使いだけを行うことになったが。
     笑うライオンのバリエーションともいえず、トリックもありきたり。文章に緊迫感が無いのも難点。伏線(手がかり)をいれようとする健気さのみが良いところか。 (2016.05.06)


      中村美与

  1. 「火祭」
    ( ぷろふいる 1935.10. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     函館大火から二十年。放火魔が出没していた。宇野刑事は昨夜の焼け跡へ行く放浪歌手の大空宏美を見かけた。大空は発火と同時に激しくなるような科学的手法をとっているという。五回目の放火の予告。現場で大空は漏電装置を指摘する。
     実際の出来事に探偵小説的要素(トリック)を入れ込むという事と火事の描写は悪くない。が良くもない。心理的な描写が希薄なので説得力に欠ける。 (2016.05.06)
  2. 「都市の錯覚 (青森)」
    ( ぷろふいる 1936.04. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     「都市の風景」の一篇。青森の躍進の影には。
     理解不能。牛? 人魂? 単純にオチを笑えば良い話なのか、裏読みが必要なのか。 (2016.05.06)


      中村美与子

  1. 「火の女神」
    ( 新青年 1939.07. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     「セ・カカムイ」のルビ。考古学者の田無博士は助手の泉原恭治と火の女神の偶像を譲り受けるためアイヌ部落を訪れた。酋長のイシバル、長男のヌタクと娘トミ、次男のオノイ、妹のピリポと内地人の子ハル、行商人の茂山らとの酒宴中に病人が運び込まれてきた。霊媒になったトミは宣託する。巨怪と瘧の神に供え物をせよ、真夜中に、供え手はハル。
     時代的には明治の話か。伏線的描写を入れながら結末でそれが意味をもってくる、不思議な現象に化学的説明を加えるという部分は好印象。アイヌ部落を舞台にした作品自体は珍しいが、落人部落の話や欧州で書かれたアフリカの話でも通じる。内容として独自性があるわけでもないのが難点か。 (2016.06.05)
  2. 「馬鹿為の復讐」
    ( 新青年 1939.11. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     蟹工船の北星丸に救われた学生は監督の海象に痛めつけられ海に落ちてしまった。学生の幽霊が出るという噂のなか、無線が壊され技士の峰岸も殺された。船内では勘察加(カムチャッカ)の人鬼ともいわれた海象派と船長派で対立していた。船長派の事務長梁田はモルヒネ中毒で海に消え、海象も会社へ連絡をとる為に乗員の為公らと共に本船を去る。
     蟹工船、学生、殺人、幽霊譚、為公の復讐、そして黄金郷伝説。少し盛り込みすぎで、全てが薄っぺらい印象を受けてしまう。 (2016.06.05)
  3. 「旅行蜘蛛」
    ( 名作 1939.11. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     中国南部の貴陽。南方庁のカンセキキュウと貴陽都督の鄭蔡普と共産軍の黄章英が入り乱れている中、英国を含めカンの弱みとなる血書を手にいれようととしていた。カンがで至誠廟に閉じこもり危篤との知らせが入った。英国医師アーノルド・スミス、オリヴァ中尉、ジム・ウィルスン記者が、息子の冀生や瑶夫人が、鄭蔡普がかけつけたが死亡した後だった。生き血を吸う怪物飛頭ヨウか、風土病の白蛉か。鄭も第七夫人と共に殺されカンの秘書趙司龍も行方不明。至誠廟から渓谷の先にある媽姐廟に飼われていた河をも渡る旅行蜘蛛。そして血書の行方は。
     怪談、風土病、道教、化学的トリック、暗号、宝探し、そして何より中国内部勢力争いと英国と日本が入り乱れる情勢で登場人物も多い。ごちゃごちゃし過ぎでシナリオみたい、といえるかも。内容自体は悪くないのだが。 (2016.06.05)
  4. 「鴟梟の家」
    ( 新青年 1940.05. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     牧原一郎探偵を訪ねてきた孔家三男の孔令ガイ。長男、次男が相次いで山峡の谷あいで死んでいたという。さらに妹姚キンの家庭教師芝薫も。毒ガスなのか。二日後に行くという朱光こと牧原。助手格の西崎利雄は先行して調査にあたる。第二夫人と第三夫人の確執、易者の張天師、彭秘書長と第二秘書の陶文佳。リュウの鳴き声とは。青い光を放つ屍体とは。
     舞台や設定は良いが、この作品も難解な単語の羅列の描写で厚みがなく損をしている。科学/化学的説明などは放棄された化学兵器とからめてもっと面白くできたのではないかと思われる。中村美与子の探偵小説的代表作となりそうだったが、惜しい。 (2016.06.05)
  5. 「聖汗山の悲歌」
    ( 新青年 1940.09. )
    宝石 1957.02.
    幻影城 1975.03.
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
    『『新青年』名作コレクション』新青年研究会編 ちくま文庫(し-53-01) 2021.04.10
     甥の香坂淳一から久しぶりに届いた手紙に書かれていた物語。香坂は包頭への帰途、トラックに乗り合わせた龍克子から聖汗山へ競馬かたがた仏像と手紙を届けてくれないかと頼まれた。聖汗山の喇嘛の大本山が復活し、KGB主催の競馬が開催されるという。引き受けた香坂は西寧でソ連のスパイと思われるザハルウィッチを見かける。香坂と籠に乗り合わせた日本の子守唄に涙する芬莫。聖汗山へ着いた香坂は事件に巻き込まれる事になった。
     小説としてはロマンスあり意外性もそこそこあり、代表作ではある。しかし、誰がどの立場で動いているかという謎以外の探偵小説的趣向はあまりない。グラニル(グアニル)のみ、名残りといえるかも。 (2016.06.05)
  6. 「彗星」
    ( 新青年 1943.11. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     蒋介石軍生き残りの部隊を率いる侃将軍は山峡に移駐していた。隣接する米軍航空基地。武器商人カトラーは米軍アラン大尉らに最新型高速爆撃機を提供しようとしていた。侃の部隊から米軍に派遣された洪潔明は日本人の母をもち、航空機の操縦も片山教官に習っていた。アランの秘書紅椿、洪の同期の班超子、敵か味方か。そして、カトラーの乗ってきた彗星号が離陸する。
     指紋の件など小細工をしたり、詭計を用いているのは探偵小説的。時局思想的要素がなければ騙し合いのコンゲーム的要素も感じられなくはない。多くの男性作家の書いた勇猛果敢猪突猛進型でない冒険小説というところに面白みがあるように思える。 (2016.06.05)
  7. 「ブラーマの暁」
    ( 新青年 1944.03. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 1944.04.
     カルカッタの豪商ラフラが青色ダイヤと共に消えた。ラフラの助けでその子である血盟団闘士ビルラの隠匿物資を吐かせようとしていたウォレス中尉の計画は水泡に帰した。警備隊のジョンソンも血盟団を一網打尽にしようと狙っていた。蛇使いのトンガが示す菩提樹の上部には輝く死体が。日本の密偵の通称ニザム・ハン、リカ第二夫人、コック、拝火教のセロイコス、ナラダ比丘尼、そして午後八時に。
     五十フィートの高さまでどのようにして持ち上げたかは結局「印度人なら一本のロープがあれば」の冗談口(?)以後何も説明がないような。理由は書かれているが。特に探偵小説要素の濃い作品では名前だけの人物が多くゴチャゴチャしてしまう。隠し方や後光がさしているような死体など、悪くはないが、効果的描写に欠けるのが残念。 (2016.06.05)
  8. 「ヒマラヤを越えて」
    ( 新青年 1944.04. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     拉薩に潜入した八洲直。彼の父八洲直人は故十三世達頼喇嘛の最高軍位にいたが、英支と四人の執政の暗躍で失脚し日本に帰還していた。英国の飛行兵は成層圏飛行の為の高地訓練中だが機体はまだ完成していない。莫喀爾と妹の咏芬、代わりに捕まった武昌亜子。一月二日の神縄の儀式、五百呎の城楼から降下する儀式の生贄となった八洲は。
     今ひとつ八洲直の役割がわからない。西蔵の独立(?)と航空機のヒマラヤ越えの関連性も無理矢理結び付けているだけと思える。小さなトリックもあるにはあるが。 (2016.06.05)
  9. 「阿頼度の漁夫」
    講談倶楽部 1944.12.
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     千島列島最北端の阿頼度島。鰊の不漁続きで落魄した松前福山の漁場主宋馬家の長男雄吉も豊漁な阿頼度に出稼ぎ漁夫として来ていた。当時の事で逆恨みをしている猪上、そして到着した出稼ぎの娘子らの中に幼馴染のお佐代がいた。夏が終わり引き上げる段になった時、ソ連の漂流魚雷が。
     お国の為にも一致団結して、にロマンスを添えた話。翌年、玉音放送後に戦闘になった占守島の隣にあたり、出稼ぎカニ缶詰工場の女工もいたらしい。一年後の占守島の事を思えば、期せずして皮肉な話にもなっている。また、「馬鹿為の復讐」の舞台も阿頼度島を想定しているような気がする。 (2016.06.05)
  10. 『百万弗の微笑』
    『百万弗の微笑』 此声社 1946.10.25 (夢現)
     おれ、デブ公のミッキーことトム・ミックスはルーズベルトの用心棒さ。お人よしで鈍重で健啖家で血の巡りが緩慢。そこに大統領の用心棒の価値があると親友の新聞記者スミスもいっていたっけ。一九四一年三月二十日(十七日の誤りか?)、おれはニューヨークでプリンスオブウェールズ号に乗り込んだ。大統領にいるところにおれがいる、という事で記者の質問責めだ。デッキで踊る大統領。三月十八日、白堊館入り口でスミスに合った。大統領はメーン州のロックランド、ヴァージニア号でチャーチルと会っていたらしい。してやられたわけだ。 一九四一年三月二十日、大統領はフロリダにいた。宰相格の民主党のホープの娘カザリンがスミスと婚約したが、スミスは労働党だ。参戦か反戦か、武器商人アプネルもやってくるし、デモも起きる。 六月十九日、スミスはニューヨークへ移動になった。おれは、ニューヨークへスミスに会う為に行くんだ。スミスを探している記者のウォルターにつきまとわれるが少年からメッセージを受け取る。さあ行こうか、ウォルター。仮面舞踏会、少年はスリの疑いをかけられ北印度の王子クリシューナと名乗る。オレはポケットに入っていたカードでサタンの秘密結社へ紛れ込む。ブロードウェイの地下にあろうとは。 突然、空襲警報のサイレンだ。ブロードウェイが闇と化した。氾濫する人の波は海嘯そのもの。爆音、炸裂、閃光。引かれる手に助けられた。 七月八日、大統領一行はデュポン家のデラウェア荘を訪れた。武器を売り込みにくる人々、買収工作。そして危機一髪。 八月三十日、スミスは言う、ルーズベルトの決断力を欠けば敗北戦争を強いられるだろう。労働党だが、彼を支持する。
     一九四一年三月より同八月に亘る約半歳の「大統領の用心棒ミッキー」の記録。舞台や時代背景以外は創作とみられる。これは戦前の国策スパイ冒険譚をアメリカに移したものではなかろうか。空襲など日本の体験が反映されていたり情報不足を露呈しているのは否めない。「おれ」の一人称と友人を救う為に行動するのは、冒険小説からハードボイルドへの移行の可能性もあったと思われなくもない。 (2016.06.11)
  11. 「真夏の犯罪」
    ( ぷろふいる 1947.12. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     死活問題だ。赤沢は邪魔ばかりする貨物審査係長の片山を殺す決意をした。そして計画は実行されたが。
     殺さなくとも、などいろいろあるがコメディ的内容。もう少し突き抜けていれば。惜しい、というべきか。 (2016.05.06)
  12. 「サブの女難」 [サブ]
    ( 仮面 1948.03. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     スリの地下鉄サブ。サブにぞっこん惚れた姉御がいるという。仕事で得たプラチナ時計を故買へ持っていくと贋物だという。それだけではなく、いつの間にか。
     健気に似せようと努力しているのが透けてみえる。本編が別にあっての一挿話的な内容にしかなっていない。 (2016.05.06)
  13. 「サブとハリケン」 [サブ]
    ( 仮面 1948.06. )
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
     スリの地下鉄サブ。地下鉄サム。倉徳(クラドック?)刑事。煙山猛朗映画監督。喜劇役者の泥洲出来助。女優春野夢江。
     地下鉄サブ。八丁荒らしのハリケン。地下鉄サム。倉徳(クラドック?)刑事。煙山猛朗映画監督。喜劇役者の泥洲出来助(ドロシー?)。俳優朝霧映水。女優春野夢江。音呑博士。原典と亜流に詳しくないのでどこまでが借用なのかよくわからない(複数作混合?)。虚実入り乱れたドタバタ劇は少し面白い。 (2016.05.06)
  14. 「猟奇地界」 [兵六]
    ( 犯罪雑誌 1948.07. )(論創)(夢現)
     河岸の塵芥捨場で惨殺美人の屍体が発見された。鶏の脚みたいな痕とは?
     兵六(シャーロック?)の八角眼鏡など、やや突き抜けたアイディアの面白味も感じられるが、今ひとつ生かしきれていない。 (2016.05.06)
  15. 「吉田御殿」
    ( 読物の泉 1948.10. )(論創)(夢現)
     大正館という下宿の女将サワ子は止宿人を決めるのにも容姿をもってしていた。夫となった野島と止宿人赤池と女中お琴らの中、サワ子は。
     大幅に刈り込まれた作品に思える。伏線も何もない、話の筋だけ。 (2016.05.06)
  16. 「裸行進曲」 [サブ]
    ( 講談と小説 1948.10.15 )(論創)(夢現)
     女探しの依頼。ストリップの大行進。
     世相を反映した一コマ以外、何もないような。 (2016.05.06)
  17. 「女体地獄」
    ( 新自由 1949.05. )(論創)(夢現)
     小奇麗だった養育園にいた八十五歳の老婆だが、騙され捨てられ鬼按摩に拾われたが。
     埋め草の好色読み物というだけの内容。 (2016.05.06)
  18. 「極楽の門」
    ( 好奇読物 1949.06. )(論創)(夢現)
     お寺へ行くには遊郭を通らなければならない。坊さんも通う。小雛に見込まれ乗り込まれた山本覚禅は。
     地獄の門と極楽の門の対比や描写にやや面白いところもある。艶の欠ける艶笑小咄。 (2016.05.06)
  19. 「蛇性の女」
    ( 雄と雌 1949.08. )※3より



      略歴・筆者のことば

  1. 「略歴(「火祭」)」中村美与
    ( ぷろふいる 1935.10. )(夢現)
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08 「解題」に引用
  2. 「筆者のことば(『百万弗の微笑』)」中村美与
    ( 『百万弗の微笑』 此声社 1946.10.25 )(夢現)



      著書

  1. 『百万弗の微笑』 此声社 1946.10.25
    △「筆者のことば」/「百万弗の微笑」
  2. 『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
    「火の女神」/「馬鹿為の復讐」/「旅行蜘蛛」/「鴟梟の家」/「聖汗山の悲歌」/「彗星」/「ブラーマの暁」/「ヒマラヤを越えて」/「阿頼度の漁夫」/「真夏の犯罪」/「サブの女難」/「サブとハリケン」/「獅子の爪」/「火祭」/「都市の錯覚 (青森)」/△「解題」横井司



      参考文献

  1. 「解題」横井司
    『中村美与子探偵小説選』 論創社・論創ミステリ叢書20 2006.10.08
  2. 「補説」谷口俊彦
    『推理小説雑誌細目総覧1』山前譲編 浦和推理小説文献資料研究会 1985.08.10
  3. 「中村美与子」
    『探偵作家発見100』若狭邦男 日本古書通信社 2013.02.20
  4. Web Site 論創社
    「〈論創ミステリ叢書〉補遺」横井司 (アーカイブ)
  5. ほか 雑誌「幻影城」「宝石」など



      おまけ
 ラジオドラマ懸賞 [中村美代子]
「新青年」 1927.07. (昭和2年7月号) より


(葛山二郎は撫順(現中国)から応募)
 ラジオドラマ応募に中村美代子の「漏電」がある
 次号では発表されず、10月号の結果発表では以下の通り

△創作探偵小説に比較してラヂオドラマの方は完全に失敗した。一つとして放送に役立つものは得られなかった。考えて見れば、ラヂオドラマそのものが、相当六ヶ敷いものであるのに、其処へ持って来て探偵といふ観念が入ったために一層困難になったのであらう。 で一等はなしにして二等一名、三等三名といふ事にして、規定の賞金は左記(下記)四氏に分配する事にした。終りにこの挙に対して御声援下すった諸君並びに、選者の労をとって下すった小山内、長田、小酒井、江戸川の諸氏に厚く御礼申上げる。
 二等(賞金百円) 幽霊の最後(小山内薫、長田秀雄、小酒井不木、江戸川乱歩諸氏一致推薦)成田燦児
 三等(賞金五十円) 獅子使ひ仙五郎(江戸川、小酒井両氏推薦)武藤五重郎/ストトン(長田秀雄氏推薦)原彌太郎/吹雪(小山内薫氏推薦)逸名氏

(三等の二番目の題名が違う原因は不明。応募者名は改名か。谷田原(静郎)→原彌太(郎))



 講談倶楽部 第九回懸賞小説入選発表
「講談倶楽部」 1944.12. (昭和19年12月号) より


(他の応募者の詳細住所は黒塗り補正しています)
 岡田鯱彦の名もあるが解読できず(諜■■■日船録)



 ロック 第一回予選通過作品
「ロック」 1948.03. (昭和23年2・3月合併号) より


 戦後も投稿している。やはり岡田鯱彦の名もある。
 最下段に高木彬光の名もある。薔薇小路棘麿(鮎川哲也)と同期の所以。



 「中村美与子氏追悼」中島河太郎
「宝石」 1957.02. (昭和32年2月号) より抜粋

 中村美与子氏の訃を宝石社の編集部から報された。亡くなられ時も分らないし、没年も知らない。「宝石」とは到頭縁がなかったから現代の読者には疎いだろうが、私などには聊か懐かしい名前である。
 探偵小説の総目録を拵える際、見つけ出した中村美代子が同じ人なら、その発表されたのが昭和二年だから五十歳余りということになろうか。それとも、往年の探偵小説専門誌であった「ぷろふいる」に新人として紹介されたのが初登場とするなら昭和十年ということになる。
 (略)
 青森在住のため地の利を得ず、羽翼を伸ばす機会もなく亡くなられたのは、女流陣の振わない探偵小説文壇にとっては、やはり一抹の寂しさを感ぜずにはおれない。 (丗一・十二・廿八)

 なお、探偵作家クラブ会報 1949.04.によれば(どこからかは不明だが)弘前市、1950.12.では青森市、1953.02.同じく青森市に転居記載がある。



 「YDNペンサークルの頃」光石介太郎
「幻影城増刊」 1975.07. (昭和50年7月) より抜粋
再録:『光石介太郎探偵小説選』論創社・論創ミステリ叢書67 2013.09.20

 (略) (「ぷろふいる」の新人登場欄の)登場者に檄をとばしてYDNペンサークルというのを結成していた。集まる者は、平塚白銀、石沢十郎、前田郁美、中山狂太郎、中村美与、中島親などで、毎月新宿ウェルテルの三階で例会を開いたばかりか、この連中は殆ど毎日私のアパートに屯ろして探偵小説文学を論じ合っていたものだ。のちに金来成、左頭絃馬、舞木一郎などが参加し、高橋鐵も (以下略)



 「靴の裏――若き日の交友懺悔」光石介太郎
「幻影城」 1976.02. (昭和51年2月号) より抜粋
再録:『光石介太郎探偵小説選』論創社・論創ミステリ叢書67 2013.09.20

 (略) 豊島アパートという所にねぐらを変えていたが、そこに集まる常連のメンバーは、中島親、西島亮、平塚白銀、舞木一郎、中村美与といった所だった。
 (略) あるとき私は彼女の何かの言節に大変肚を立てて、メンバーが居並ぶ中でさんざんやっつけ、とうとう泣かしてしまった思い出がある。彼女が泣きながら帰って行った (略) それきり彼女は来なくなった (以下略)


 「「ぷろふいる」編集長時代」九鬼紫郎
「幻影城」 1975.06. (昭和50年6月号) より抜粋

 (略)
 初仕事の新人原稿の選別は、まもなく終り、私は中村美与の『火祭』をえらび、これを初編集号に掲載した。激情にあふれた犯罪猟奇小説で、文章の強さが私を吸引した。中村美与はのちに「新青年」に何作か書いた中村美與子で、彼女の『聖汗山の悲歌』は本誌に再録されている。 文章は男性のように雄勁で、スケールの大きい小説を書くが、探偵小説のようにルールのある読物には向かぬ体質をもっている。「ぷろふいる」に投稿した時代には、青森県弘前市にいたと思うが、生れは北海道函館市で学校は小学校のみ、少女時代から探偵小説を読み、一時はドラマに熱中したが、また探偵小説にもどった、と彼女は「ぷろふいる」への、入選感想文のなかに書いている。
 私は一度、彼女に会ったことがある。十一年の暮であったろうか、東京渋谷の道玄坂の中ほどにある喫茶店か、レストランかで「ぷろふいる」の集まりがあったとき、私のとなりへ彼女がすわった。年齢は私より十はうえのようだった。地味な着物をきて、話しぶりはすこし早口で、つつましやかであった。青森にいる彼女が、なんで東京へ来ているンだろう、と私はべつに考えることもなかった。気にしていなかったわけだ。たった一つ、私の気にかかったことは、彼女が私にむかって話しかけるとき、ひどくイキをきらすことだった。彼女はひどく音をたてて、ノドをぜいぜいいわせたので、喘息でもわずらっているのか、と私は気にかけた。或る人に、彼女の容貌はどうなのかと最近に質問をうけたが、美人でもなければ不美人でもない、しごく普通の顔だったような、としか私には答えられない。
 (以下略)



 「名編集長交遊録・九鬼紫郎」鮎川哲也
『こんな探偵小説が読みたい』鮎川哲也 晶文社 1992.09.15より抜粋
初出:EQ 1990.11.
再録:『幻の探偵作家を求めて 完全版(下)』鮎川哲也、日下三蔵編 論創社 2020.05.10

 (略)
「京都時代に投稿して来たときは住所が青森県になっていました。やがて編集部が東京に移った頃、新人や読者を集めてパーティーを開いたのですが、その時分の中村さんはすでに上京していましたね。一度隣り合わせた席についたことがありました。呼吸の音がちょっと変わっていたので、喘息の持病があるのかなと思ったことがあります」
 光石介太郎氏がどんなことをいったのかは知る由もないが、彼女を泣かしたというのはこうした会合の席上だったのだろう。
 戦後、弘前に住んでいた中村美与子氏とわたしは、何がきっかけだったか記憶にないが、文通をした。彼女から、おそらく自費出版だろうと思うが『百万弗の微笑』というセンカ紙の著書を贈られたことがある。しかも署名入りなので、いまもって大切に持っているものの、なぜこの人がルーズベルト一代記みたいな小説を書いたのかという疑問は遂に解けなかった。
 やがて彼女は狩久氏と文通するようになる。いつだったか狩氏から、中村氏の写真をみせてもらったことがあった。そのうちに狩氏あてに短編原稿が送られて来た。雑誌社に紹介してくれということだったのかもしれない。だがそれも実現しないうちに、彼女は亡くなってしまう。もともと心臓がわるかったらしい。狩氏が預かった原稿を『宝石』に持ち込んだのであろうか、中村氏の短編は遺作として掲載されたように覚えている。
 (以下略)

 宝石掲載は「聖汗山の悲歌」なので勘違いと思われる。遺作は掲載に値しなかったのか宝石以外に掲載されたか行方不明かは不明。
 ちなみに、『百万弗の微笑』はルーズベルトの用心棒が主人公で秘密結社に乗り込むなど冒険小説に近い部分もある。




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